何が台湾有事のトリガーになるのか ウクライナ侵攻からの教訓

台湾海峡を航行するカナダ海軍のフリゲート艦「バンクーバー」(9月20日)|
Mass Communication Specialist 1st Class Donavan K. Patubo / U.S.Navy via AP

◆台湾有事のトリガー
 一方、こういったリスクが高まることによって、台湾有事のトリガーとは何かという議論が活発になっている。台湾侵攻の判断材料としては、台湾に対する制裁目的の強制的な経済政策、政府機関や重要インフラへのサイバー攻撃、偽情報を流布する認知戦の兆候などが挙げられているが、これらはすでに始まっている。現在の戦争はハイブリッド戦争と呼ばれ、軍事力だけでなく経済制裁やサイバー攻撃、偽情報の流布など多種多様な手段が用いられる。ウクライナや台湾はすでにロシアや中国からそういった手段で攻撃されており、ハイブリッド戦争に突入している。よって台湾有事で経済制裁やサイバー攻撃はトリガーとは言えない。

 台湾有事のトリガーの判断は極めて難しい。ロシアによるウクライナ侵攻の際も、多くのロシア研究者はロシアの侵攻はないと判断していた。だが我々がウクライナ侵攻からの教訓として学ぶべきことは、侵攻前、ロシア軍がウクライナ国境に異常に集中し、ロシア極東軍(武器も)がウクライナ国境に向かったように、軍が異常な配置をする時、異常に一つの場所に集中する時がトリガーになる可能性があるということだ。つまり台湾方面を管轄する東部戦区に人民解放軍の異常な集中が見られたときは、一つのトリガーポイントになるだろう。その際、中国は人民解放軍の軍事演習の一環と発表するかもしれないが、軍事演習を名目にした常駐ということも十分にあり得る。

◆危機管理対策として邦人退避を検討するべき
 台湾には3100社あまりの日本企業が進出し、2万人もの邦人がいる。有事となれば陸続きのウクライナと違い、海に囲まれた台湾からの避難は困難を極めることは想像に難くない。しかもペロシ米下院議長が台湾を訪問し、中国が軍事活動をエスカレートさせた際、大韓航空やアシアナ航空がすぐに台湾便のフライトを停止したように、唯一の安全な退避手段である民間航空機の利用はできなくなる可能性が高い。日本は官民一体となって台湾有事における邦人退避を本格化させる必要がある。

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Text by 和田大樹