「ロシア人観光客をEUから締め出すべき」EU加盟国で意見分かれる

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◆宇はビザ発給禁止を要望 意見分かれるEU
 ウクライナのゼレンスキー大統領は、ロシア人が欧州や先進7ヶ国(G7)加盟国への旅行ができないように、観光ビザの発給を禁止することを提案した。しかし、EU内では意見が分かれている。

 バルト三国、ポーランド、フィンランドなどは基本的に禁止支持の立場だ。リトアニア外相は、EU全体として禁止にならないのなら、自分たちだけでもロシア人観光客の入国を禁止する可能性もあると述べた(ロイター)。チェコ、デンマークも禁止に賛成している(ビザ情報サイト『Shengen VisaInfo.com』)。

 一方ドイツのショルツ首相は禁止に反対を表明し、ロシアの体制に反対するロシア人は自由に脱出できるようにすべきだとした。EUの外務委員長も、ロシアから脱出しようとする人に扉を閉じることはできないとしている(ユーロ・オブザーバー紙)。これは通常亡命希望者が観光ビザで入国するケースが多いことを踏まえた発言だと思われる。ポルトガル、キプロス、ギリシャなど観光に頼る国も禁止に反対を表明している。

◆ロシア人よ、目を覚ませ 侵攻への責任を問う
 ウクライナのクレバ外相は政治誌ポリティコに寄稿し、「普通のロシア人に罪はない」と考える人に対し、ビザ発給禁止の必要性を訴えている。同氏は、犯罪の法的責任が個人にあるというのはわかるとしながらも、ロシア人の大多数が戦争を支持していると指摘する。ドイツ人が抱き続けた第二次世界大戦における自国の行為への罪悪感に言及し、ドイツのように共通の責任と罪悪感を引き受けるまではロシアは変わらないと主張。プーチン大統領だけに責任を負わせるというのは、危険なほど世間知らずな考えだとした。まずビザ発給を停止し、国境を越える権利を奪うことで、ロシア人の目を覚まさせ、ファシズムの現実に目を向けさせねばならないとしている。

 モスクワ・タイムズ紙に寄稿した外交安全政策の専門家のベンジャミン・タリス氏も、「集団的責任論」は不当というリベラルな考え方に反対する。ビザ発給禁止はロシアの「非政治的」な中流階級や上流階級の人々にも影響が及ぶものだが、この層はプーチンとの取引を受け入れ、物質的な見返りを受ける代わりに変化のために政治的な力を使おうとしなかった主張。彼らが抑圧的な国家機関の権力行使を許し、欧州の安全保障にとって最大の脅威であるロシアを誕生させたのだから、社会的な連帯責任を負うべきだという考えだ。

 同氏はまた、ビザ発給禁止はロシアの悪質な報復主義に立ち向かう欧州の決意を示すものであり、欧州自身の安全保障と民主主義の回復力への投資にもなると主張。さらに、プーチン氏の台頭は長年にわたりさまざまな形で独裁的権威主義を甘やかしてきた欧州人にも責任があるとし、プーチンのロシアを倒すためには、ビザ発給禁止は強力な手段の1つになり得るという考えを示した。

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Text by 山川 真智子