ウクライナ、「親友」ジョンソン英首相の辞任に心痛 「ウクライナ首相になって」嘆願も

ジョンソン首相とゼレンスキー大統領(6月17日)|Ukrainian Presidential Press Office via AP

◆いまやブロマンス たたえ合う2人
 嘆願が出された数時間後に、偶然にもジョンソン氏はゼレンスキー氏に「ウィンストン・チャーチル卿リーダーシップ賞」を授与している。ゼレンスキー氏が3月に英議会でチャーチル元首相の最も有名な演説の1つを引用してスタンディングオベーション受けたことは記憶に新しい。過去の受賞者にはチャールズ皇太子、サッチャー元首相、オルブライト元米国務長官など、そうそうたるメンバーが名を連ねている。

 ロイターによれば、キーウからビデオ回線を通じて賞を受けたゼレンスキー氏は、イギリスとジョンソン氏に謝意を表した。また戦時中のチャーチル首相の言葉を引用し、ジョンソン氏は困難に陥っても「戦いをやめようと思ったことはない」と讃えている。

 イギリスのテレビチャンネル、トークTVのインタビューでは、ゼレンスキー氏はイギリスの政治に関与する権利はないとしつつも、ジョンソン氏はウクライナの偉大な友であり、英政界に残って何らかの地位についてほしい、消えないでほしいと述べた。また、ジョンソン氏との個人的な関係がイギリスのウクライナへのサポートを加速させたと考えているため、今後のイギリスとの関係を心配していると発言。2人の親密な関係をうかがわせた。

◆代わりはいない! 新首相で両国関係はどうなる?
 トークTVのインタビューで、ゼレンスキー氏は誰が首相になっても、これまでどおり緊密に連携したいという考えも示した。しかし政治誌ポリティコは、ウクライナではイギリスとの親密な関係が存続するのかという疑問が出ているとしている。ウクライナのクレバ外相は、ゼレンスキー氏とジョンソン氏の化学反応はほかの誰かとではおそらく起こらないと述べ、後任との相性を疑問視している。ジョンソン氏の長年の盟友の一人は、ウクライナにとってジョンソン氏の退任はリスクであり、「古い欧州」が気弱になっているいま、彼のような存在が去るのは損失だとした。

 もっとも、防衛シンクタンクRUSIのジョナサン・エヤル氏は、ウクライナ支持がイギリス国民の大方の総意だと見ており、支援は続けなければならないとポリティコに述べている。次期首相を選ぶ保守党の党首選で決選投票に残った2人の候補者、トラス氏とスナク氏のどちらも、ウクライナ問題での方向転換を示唆する発言は行っていない。いまのところ対ロ強硬派で現政権の政策に積極的にかかわってきたトラス氏のほうが、外交・防衛に経験が浅く経済維持を望むスナク氏より、ウクライナ問題では討論会でポイントを上げている。決選投票までウクライナ側も目が離せそうにない。

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Text by 山川 真智子