シェンゲン協定の危機 足並み揃わぬヨーロッパ諸国の入国制限

ハンガリーのオルバン首相|Francois Lenoir, Pool Photo via AP. File

 自由な人の行き来が保障されるはずのシェンゲン圏内でも、パンデミック初期には欧州各国が国境を閉じる事態となった。その後6月から徐々に自由な行き来が再開されたが、感染者の増加傾向を理由に、8月以降再び入国を制限する国が増えている。足並み揃わぬ各国に、せめて基準だけは揃えようと、欧州連合理事会議長国であるドイツが呼びかけたが、時すでに遅しの感が否めない。

◆混乱だらけの国境閉鎖と入国再開
 シェンゲン協定に加盟しているのは、欧州連合加盟国のほとんどと、欧州連合非加盟国のノルウェー、スイス、アイスランド、リヒテンシュタインを合わせた26ヶ国だ。ヨーロッパ連合サイトには、シェンゲン圏内は「国境がないスペースで、その中では、(EUの)住民、EUメンバーでない複数の国の国民、ビジネスマン、観光客らが、国境検査を受けることなく自由に行き来できる」とある。

 そのシェンゲン圏内にあっても、パンデミックの広がりにより、3月半ばから各国がバタバタと国境を閉めざるを得なくなったのは周知のことだ。その後、感染のピークを過ぎた5月半ばより徐々に入国制限が緩和され、EUは6月15日の制限解除を目指すに至る。だが、それもまた各地の感染や経済の状況の影響を受け、各国足並みの揃わぬものであった。

 たとえば、6月15日以降もハンガリー、ブルガリア、オーストリア、スロバキア、チェコ、ノルウェー、デンマーク、ラトビアなどは、一部の国に対する入国制限を維持した。その一方で、イタリアやクロアチア、ポーランドなどは、6月15日を待たず国境を開いた(EUに関するニュースサイト『トゥートゥ・ルーロップ』7/16)。

 また一部には国境での混乱も見られた。たとえば、6月8日に国境を開く予定にしていたベルギーでは、内相が5月29日唐突に「ベルギー人は明日からベルギー王国の隣国へ行くことができる」と発言(フィガロ紙、6/1)。隣国への通達も協議もなく公にされたこの言葉は、5月最終週末、フランスやオランダとの国境でいくばくかのトラブルを発生させた。これを受け、ベルギーとの国境の町オランダ、スロイスの市長は「ベルギー人は人を驚かせる能力に長けている」とツイートで皮肉ったほどだ(同)。

 そのほか足並み揃わぬ例として、6月15日にシェンゲン圏内の往来制限を解いたフランスが、スペインと英国という例外を設けざるを得なかったことも挙げられる。その理由は、スペインと英国はそれぞれ6月15日の時点ではまだ独自の入国制限を保持しており、フランスもその対象だったことにある。外交における「相互主義を適用」し、フランスも両国に対し、同じ制限を敷いたというわけだ(フィガロ紙、6/13)。

Text by 冠ゆき