シェンゲン協定の危機 足並み揃わぬヨーロッパ諸国の入国制限

ハンガリーのオルバン首相|Francois Lenoir, Pool Photo via AP. File

◆夏の終わりを待たず、再び相次ぐ入国制限
 とはいえ、感染の大きな波を乗り越えたかに見えた夏、バカンスがもたらす経済効果狙いも影響し、ヨーロッパ人は自由な往来を謳歌し始めた。ところが、それも長くは続かなかった。感染者の再増加を理由に、再び入国者への隔離や感染テスト義務を課す国が増えたためである。

 まず、寝耳の水のニュースは、8月13日夜10時、イギリスからもたらされた。フレンチ・モーニング・ロンドン(8/13)が伝えるように、8月15日16時以降フランスからの入国者はみな2週間の隔離を課されると決定したというのだ。バカンス真っただ中に届いたこの知らせに驚いた旅行者らがなんとか施行開始までに国境を越えようとしたため、ドーヴァー周辺では8月14日に少なからず混乱が起きた。

 その後も、リトアニア、デンマーク、オランダ、ドイツと入国制限を設ける国は増加の一途をたどっており、いまでは制限を設けていない国を数えるほうが早いほどである。実際、ヨーロッパ連合サイトによれば、9月10日現在、シェンゲン圏内で制約のない往来を認めている国は、スウェーデン、ポーランド、フランス、ルクセンブルグ、スペイン、ポルトガル、ブルガリアの7ヶ国のみとなっている。ただ3月と異なるのは、国境を閉ざしきってはいないという点だ。基本的に制限は一部の国や地域のみを対象としたもので、入国前あるいは入国時の感染テストや、隔離義務を課すものである。ただし、その基準自体はてんでんばらばらだ。「国によって、課せられる隔離期間は現在10日~14日と幅がある。感染テストも、出発時あるいは到着時に求められ、過去48時間以内あるいは72時間以内にされたものでなければならない」とされる(RTL、8/31)。さらに、Covid-19の感染危険区域の基準も国によってさまざまときている。

◆ハンガリーの強硬策とEUの危惧
 そんな折の8月末、今度はハンガリーが突如として9月1日からの外国人全面入国禁止を宣言した。隣国との協議なく下されたこの一方的な決定に、欧州機関は懸念を覚え、「期間や地理的範囲を限った対策実施」(ユーロニュース、8/31)にするよう要求したが、ハンガリーは「我が国は緑ゾーン(安全圏)であるのに、ほかの欧州諸国はみな赤ゾーン(危険ゾーン)だ」(同)と返答し、決定を見直すことはなかった。

 この事態に危惧を抱いた欧州連合理事会議長国(現在はドイツ)は、シェンゲン圏の存続のためには「首尾一貫した対応が重要である」と呼びかけた。具体的には、「パンデミックCovid-19のデータ、リスク基準、危険地域の評価と分類について、共通のアプローチ」(RTL)を持つことを提案するものだ。ドイツはまた、「加盟国が時として事前に関係国に通知することなく導入してきた往来制限の通達法についてもスタンダードを設けたい」(同)と考えている。

 シェンゲン圏の存在意義にも関わりうるこの問題。議長国ドイツは「(これを)真正面から受け止め、その重要性を強く説いている」(ユーロニュース、9/2)が、閉じかけた貝のようなヨーロッパ諸国は、どれだけ聞く耳を持つだろうか。今後の動きに注目したい。

Text by 冠ゆき