激化する米中対立、どのような世界をもたらすのか?

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 重要なのは、どの程度の軍事衝突に繋がるかだ。コロナ危機に入り、中国は香港に国家安全維持法を導入するだけでなく、南シナ海や東シナ海、そして中印国境での覇権的行動を加速させ、日米印豪との関係が急激に悪化している。日本の尖閣諸島周辺の接続水域では、100日以上連続で中国海警局の船が確認され、最近は中国が日本に自らの領海に立ち入らないよう要求したことが明らかになった。ここまで踏み込んだ要求をすることはこれまで確認されていない。

 このまま南シナ海や東シナ海で中国の覇権的行動がエスカレートすると、いつかは偶発的な衝突が発生し、局地的かつ一時的な軍事衝突に発展する恐れが十分にある。偶発的な衝突とは、2010年9月の中国漁船と海上保安庁巡視船との衝突事件が例となるが、漁船の武装化や海警と軍との一体化が進んでいるとされるなかでは、何気ない一つの衝突が自衛隊や米軍を巻き込んだ軍事衝突に発展する可能性が上がっている。今年5月、米国のシンクタンク戦略予算評価センターの上席研究員トシ・ヨシハラ氏が、「中国が4日以内に尖閣諸島を奪取する強行シナリオ」を具体的に示す論文を発表したが、同シナリオのように事態が展開される可能性は低いものの、同論文からあらゆるシナリオを前もって描いておくことは危機管理上重要となる。

◆軍事衝突より、政治・経済領域での二極化を誘発か
 そして、米中対立の長期化は、大規模な軍事衝突以上にさらなる貿易戦争、そして相互のブロック経済化をもたらす可能性がある。これは、米中それぞれがいつどの瞬間で経済依存を放棄するかによるが、香港国家安全維持法にアフリカや中東を中心に世界52ヶ国から支持が集まったように、中国が独自の勢力圏を構築できる空間は以前より広がっている。現在、インドやオーストラリア、そして欧州主要国はこれまで以上に中国への警戒心を高めており、現在の米中対立は経済領域での二極化、中国圏VS自由民主主義圏へと発展する可能性もある。

Text by 和田大樹