ポストコロナ時代の米中対立 北朝鮮を疎かにできない核以外の理由

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 先日、北朝鮮の金正恩委員長が病気との話題が世界を駆け巡り、南北国境では北朝鮮側から複数の発砲があった。韓国は、発砲は意図的なものではないとしているが、世界が新型コロナの脅威にさらされるなかでも、北朝鮮は複数のミサイルを発射している。依然として、北朝鮮の先行きは不透明で多くの不安が残る。

 また、近年「米中対立」が世界中で議論されるようになったが、今回の新型コロナウイルスの問題は、おそらくそれに拍車をかける形となる。新型コロナウイルスの始まりは武漢だが、すでに中国は感染源国から支援国へと軸足を移した外交を展開し、米国は最もその被害にあっている。

 先月下旬、米国のピュー・リサーチ・センターが発表した調査結果によると、中国に対して好意的ではないと答えた米市民は前年比6パーセント増の66%に達し、2005年の調査開始以来、最高を記録した。トランプ政権以降、中国をよく思わない米市民の割合は急激に増加している。秋の大統領選の主要争点も中国になるとの見方も浮上しており、トランプ大統領も支持拡大のためいっそう中国批判を展開する可能性がある。
 
◆米中対立は北朝鮮に有利に働く
 さらなる米中対立の高まりは北朝鮮に有利に働く。軍事力や経済力で比較しても、米中と北朝鮮では歴然とした差があり、仮に米国と北朝鮮、中国と北朝鮮が戦争をしても、結果はすぐに見えている。だが、核というカードを北朝鮮が持っており、米中とも慎重に対応せざるを得ないのだ。

 そして、もう一つ慎重に対応せざるを得ない理由がある。それは、北朝鮮が米中間の緩衝国家になっていることだ。仮に、北朝鮮が米国と外交関係を緊密化させ、米国の影響力が北朝鮮を覆うようになると、それは米国の影響力が中朝の国境まで接近することを意味する。米国と覇権争いを展開する中国にとって、敵の勢力圏が自国の国境に接することは、香港や台湾のような「核心的利益」を阻害されるほどあってはならないシナリオのはずだ。

Text by 和田大樹