戦争を変えるか、研究進む「量子レーダー」 高解像度とステルス性を実現

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 量子レーダーと呼ばれる新方式のレーダーにより、空の戦闘のあり方は一変するかもしれない。世界で研究が進むこの技術は、離れた場所にある二つの量子が互いに影響する「量子もつれ」と呼ばれる現象を利用し、従来よりも格段に鮮明に機影を捉える。さらにレーダー自体のステルス性が高いことから、自機の位置を知られることなく索敵が可能となる。制空権争いの構図は、近い将来に塗り替えられる可能性が出てきた。

♦︎ペア量子の奇妙な特性活かす
 量子レーダーの開発に情熱を燃やすのは、オーストリア科学技術研究所の博士研究員であるシャビール・バーザンジェ氏率いるチームだ。実験の技術的詳細は、MITテクノロジー・レビュー誌(以下MTR)の記事に詳しい。このチームの実験では、ジョセフソン・パラメトリック変換器と呼ばれる超電導デバイスを使い、互いに「もつれ」状態にある量子を複数ペア生成する。もつれとは、ペアとなった二つの量子が深く影響しあっている状態だ。片方の状態を変化させると、離れた場所にある他方の量子でも影響が観測されることが知られている。こうして「量子もつれ」の状態になったペアのうち、片方の量子をデバイスから射出する。量子はレーダーの観測対象であるターゲットに反射し、戻ってきたところを受信器がキャッチする。一方、ペアを形成するもう片方の量子はデバイス内で保管されており、捉えた量子がデバイスに戻ってきたところで干渉を受ける。このときの量子の反応を観測することで、射出された粒子がどれほどの距離を飛んで戻ってきたかがわかる(すなわちターゲットまでの距離を推定できる)という仕組みだ。

 ちなみにペアの片方の量子を観測することにより他方が受けた影響を観測する手法は、「量子イルミネーション」と呼ばれる。米技術誌のポピュラー・メカニクス(8月26日)は、この特性を利用し、反射波を捉えずとも機影を検知可能なのではないかと論じている。上述のようにレーダー装置から片方の量子を射出し、それがターゲットに衝突した段階で、保管してある方の量子の振る舞いが変化するはずだというわけだ。物理学の常識を覆す現象として長年科学者の頭を悩ませてきた特性を、逆手に取ったアプローチだ。

Text by 青葉やまと