戦争を変えるか、研究進む「量子レーダー」 高解像度とステルス性を実現

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♦︎高解像度で敵機の判別容易に
 量子レーダーの優位性の一つは、解像度の向上だ。既存のレーダーは敵機の方向、距離、高度を把握できるものの、いわばぼんやりとした雲の塊のような形状で捉えることが限界であり、ターゲットの形状を把握することは事実上困難だ。そのため、目標から放出される電磁波などを頼りにターゲットを識別している。量子レーダーが実用化されれば、機影を鮮明に捉えることが可能だ。ポピュラー・メカニクス誌はロシアのSu-35フランカーE戦闘機を例にあげ、翼の角度やノーズの形状、エンジンの数などから機体を同定可能だと述べている。このような特性から同誌は、量子レーダーは「戦闘のあり方を変革する可能性のある、新しい高解像度のレーダーシステム」であると述べている。

 民生技術の軍事利用を専門に扱うミリタリー&エアロスペース・エレクトロニクス誌は、戦闘機の識別だけでなく、ミサイルやその他の飛翔体のモデルの特定も可能になると見込んでいる。高解像度のレーダー画像がもたらす恩恵は計り知れない。

♦︎低出力が実現するステルス性
 量子レーダーが持つもう一つの利点は、その出力の低さだ。少数の量子を放出するだけで機能するため、レーダー自体の存在を敵側に察知されづらくなる。一方、高出力の電磁波を放出する既存のレーダーについてポピュラー・メカニクス誌は、「懐中電灯を持った人間を暗い部屋に大量に投入するようなもの」と例える。灯火のおかげで敵を見つけやすくなる反面、敵から反射した光が自分自身をも照らし出し、位置を教えることになってしまう。その点、低出力の量子レーダーであれば、自機の存在を知られることなく索敵を実行できる。

 それでは、出力を低く抑えれば、現行のレーダーでも隠密性の高い運用が可能だろうか? 残念ながらそうはいかないようだ。ターゲットからの反射波を捉えるというしくみは既存のレーダーも同じだが、低出力の運用ではターゲットの捕捉に失敗することが多い。これは、レーダー以外にも索敵範囲内にある高温の物体がマイクロ波を自然放出しており、そのノイズにターゲットからの反射波が紛れてしまうためだ。MTR誌は、量子レーダーがこの弱点を解消すると期待を寄せる。量子もつれとなったペアは非常に似た振る舞いを示すため、レーダーが捉えた量子とデバイス内に保管してある量子とを比較すれば、元々デバイスから放たれた量子であるかそれ以外の環境ノイズなのかは瞬時に判別可能となるのだ。

♦︎実用化待たれる
 大きなメリットをもたらす量子レーダーだが万能というわけではない。もともとはステルス機の検出が期待されていたが、ポピュラー・メカニクス誌によると、現在では難しいと考えられているようだ。ステルス機も微弱ながらレーダー波を反射するため、量子レーダーでそれを捉えられると考えられていたが、技術的にはそう簡単ではないという。

 さらにMRT誌によると、現在では比較的短距離でのみ実験に成功しており、研究室の外での実用化には時間がかかりそうだ。ただし、この技術自体の将来性は高い。低出力であるという利点を生かし、電磁波の低減が求められる医療目的での応用も期待されている。軍需・民生を問わず広く活用されることだろう。

Text by 青葉やまと