韓国のGSOMIA破棄、「従中・親北」の終点 日本にとって最悪のシナリオとは

Kim Kyung-Hoon / Pool Photo via AP, File

◆釜山・対馬ラインまで南下する38度線
 これは安全保障的には、朝鮮戦争以降、南北を隔ててきた北緯38度線が、日韓両国の境界である釜山・対馬ラインまで南下することを意味する。現在の米中2大国時代において、冷戦の名残であった北緯38度線は、事実上、米中間の勢力圏の境界線のような形になっている(北朝鮮は米中間の緩衝国家でもある)。

 朝鮮半島全体が中国にとって宥和の半島になるのであれば、中国の朝鮮半島への影響力拡大もいっそう進む。そして、一帯一路によって一部のアジア・アフリカ諸国が債務の罠に陥り、中国から離れられなくなっているように、北京が自ら韓国へ触手を伸ばすというより(あからさまな介入的・浸食的行動に出ると国際的な非難を浴びる)、韓国を北京に近づける戦略を取ってくることだろう。

◆新たな紛争海域となる日本海
 そして、こうなった場合は、いよいよ日本海の安全保障を真剣に考える必要が出てくる(日本海の安全保障についての論考)。中国にとって、日本海は北極海航路の構築に向けて重要な海域であり、パキスタンのグワダル港やスリランカのハンバントタ港のように、北朝鮮や韓国の東部で湾岸建設などを強化するかもしれない。中国も日米同盟に真っ向から衝突する野心的な政策・行動は取らないと思われるが、日本にとっては、五島列島から対馬列島、隠岐の島、佐渡島、北海道へと伸びる海上防衛ラインの重要性が増すことになる。

◆北主導の朝鮮統一
 従中・親北路線の終点は、北主導の朝鮮統一である。始めに指摘したようにその可能性は政治的にもきわめて低く、韓国の若い世代の多くもそれに反対だろう。従中・親北路線が進めば進むほど、反政権運動に拍車がかかることは想像に難くない。しかし、重要なのは、その過程における脅威や影響をその都度戦略的に見極め、安全保障上のデメリットを最小化することだ。現在の国際政治は流動的に変化しており、何が起こるかわからない。さまざまなシナリオを想定し、リスクを最小化する意識が重要だ。

Text by 和田大樹