お金でEU市民に 富裕層に人気の「ゴールデン・ビザ」、EUが懸念を表明

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◆富裕層に人気 中国、ロシアからも
 ドイツのディ・ヴェルト紙の報道では、ロシア、中国、アフリカやトルコなどの富裕層が、制度を利用してEU加盟国の市民権を手に入れているという(ドイチェ・ヴェレ、以下DW)。

 例えば最低50万ユーロ(約6450万円)の不動産投資で「ゴールデン・ビザ」を取得できるポルトガルは、中国人富裕層に人気だ。制度開始以来、3,890件の申請を中国から受け付けた。2位のブラジル(561件)、3位の南アフリカ(254件)を引き離し、ダントツの1位となっている。すでに昨年末の時点で中国からの投資額は総額20億ユーロ(約2600億円)に上っており、全体の6割を占めているという(投資情報サイト『インターナショナル・インベストメント』)。

 地中海の小国、マルタも人気だ。65万ユーロ(約8400万円)の政府開発債購入、最低15万ユーロ(約2000万円)の株式・債券の購入に加え、一定額以上の不動産の購入または賃貸が条件になっているが、2014年の開始以来、5億9000万ユーロ(約760億円)を集めている。政府発表の名簿には、ロシアの資産家や起業家などが名前を連ねている(フィナンシャル・タイムズ紙、以下FT)。

                                                                                                                 

◆金目当ての市民権付与 EU全体のリスクに
 タイムズ紙は、このような制度が移民制度を歪めていると指摘する。イギリスでは医師不足が深刻だが、政府の割当制度があるため、昨年11月以来2,300人以上の外国人医師のビザ申請が却下されているという。資格のあるプロフェッショナルや亡命者が拒絶される一方で、厳しいチェックを受けることもない富裕層にドアが開かれるのは問題だとしている。

 腐敗や汚職に対して取り組む非政府組織、トランスペアレンシー・インターナショナルは、「ゴールデン・ビザ」が、資金洗浄に使われていると指摘する。制度はEUの監督を逃れ秘密裡に運営されており、統計の開示もない。不正な資金が国境を越え、犯罪者は起訴を免れているが、EU加盟国は手を打たないと批判している(DW、タイムズ紙)。

 欧州委も現状を問題視しているが、市民権付与の条件は、各国が独自に決められることから、制度そのものを禁止する力はない。よって、EU加盟国に対し安易な市民権の付与をしないよう呼びかけると同時に、近々8ヶ国に対し、より厳しい調査を行う予定だとしている(FT)。欧州委員会司法長官のベラ・ヨウロバー氏は、市民権付与は受益者にEU市民としての権利を与え、自由な域内の移動を許してしまうことから、EU全体の深刻な安全保障上のリスクだと話している(DW)。

Text by 山川 真智子