中国の「一帯一路」への対抗策を主導か 安倍首相の外交に海外誌が注目

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◆スリランカで火花を散らす日中
 フランスの日本専門家、セリーヌ・パジョン氏はフォーリン・ポリシー誌に「日本は、中国の外交戦略全体、特に一帯一路の代案の提案に非常に積極的になっている」と語る。確かに、首相と外相の訪問先を見れば、「一帯一路」がカバーする地域と重なるように見える。同氏は、日本の狙いは「中国の戦略的計算を混乱させる」ことと、「可能な限り、多極的な世界を維持すること」にあると見る。

 同誌が特に「一帯一路」に対抗した顕著な例として着目するのは、河野外相のスリランカ訪問だ。日本の外相のスリランカ訪問は15年ぶりで、インド洋に浮かぶ小さな島国としてそれだけでエポックメイキングな出来事だと言えよう。外相はそこにビジネス・リーダーによる大規模な代表団を引き連れ、経済関係の強化をアピールした。そして、最終日に同国最大の港湾都市・コロンボを訪問。戦略物資である天然ガスの輸入拠点の建設を援助すると発表した。

 フォーリン・ポリシー誌は、このコロンボ訪問の裏には、中国がスリランカ南部の沿岸都市、ハンバントタの港を支配下に置いた件があると指摘する。2010年、同地の自然豊かな海岸に大規模な港が建設されたが、その開発費用のほとんどは中国の融資によるものだった。しかし、スリランカは中国が設定した最高6.3%という金利に苦しみ、債務のカタに、99年間の貸与という形で運営権を中国国有企業に明け渡さざるを得ない状況に追い込まれている。表向きは商業港だが、中国が支配する今は厳戒態勢下に置かれ、中国が軍事利用を見据えているのは現地では公然の秘密だという。日本は中国が繰り広げるこうしたしたたかな戦略に対し、インドと協力してバングラデシュ、ミャンマー、インド洋の島々などで港湾開発に乗り出しているが、特にコロンボ港の開発援助は、このハンバントタを巡る中国の動きを直接牽制する意味合いが強いというのが同誌の見方だ。

◆日本はアメリカ不在の間の「中継ぎ」に過ぎない?
 また、アジア太平洋地域専門の外交誌『ディプロマット』は、河野外相のシンガポール・ブルネイ訪問を取り上げ、日本は両国を含む東南アジアとASEAN諸国も積極的に仲間に引き入れようとしていると報じている。同誌は「安倍首相の最新の構想は、広くアジアからアフリカに至るコネクションを強化することだ。それにより、地域全体に様々な意味でより大きな安定と繁栄をもたらすのが狙いだ」と書く。

 同誌が示唆するのは、東南アジアとアフリカの結びつきを強化する安倍政権の「アジア・アフリカ成長回廊」構想だ。「一帯一路」と重なる戦略に見えるが、フォーリン・ポリシー誌は、それは偶然ではなく、明らかに中国への対抗策だと見る。また、オーストラリアのビショップ外相は最近、日米印とアジア太平洋地域で共同インフラ整備計画を策定していることを明らかにした。これも、一部で「一帯一路」への対抗策だと報じられている(ブルームバーグ)。日本は米豪印との協力関係を強化しつつ、連動して独自の戦略を進める方向に大きく舵を切っている最中だと言えるかもしれない。

 このように日本主導の戦略の足場作りが進む背景には、自国第一主義を掲げるトランプ大統領のアメリカがいずれアジアから撤退するのではないかという懸念があるという見方が強い。ただ、米テンプル大学ジャパンキャンパスのロバート・ドゥジャリック氏は、日本にはアジアでアメリカに取って代わるだけの経済的・外交的資源はないと指摘する。「もし、トランプ現象が一時的な病気に過ぎないのであれば、日本はアメリカが正気に戻るまでの重要なバンドエイドの役割を果たすだろう」(フォーリン・ポリシー誌)

 同氏が言うように日本はアメリカ不在の間の「中継ぎ」に過ぎないのか。あるいは多極化する世界のパワーバランスの中で、その一角を担うことを狙っているのか。安倍政権の舵取りが今後の世界情勢に少なからず影響を与えるのは間違いない。

Text by 内村 浩介