楽しかった子供時代が蘇る? VHSテープを買い集める人々

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◆VHSは文化だ 郷愁がコレクターを動かす
 高価であるにもかかわらず、デジタル時代のいまでも、VHSテープには多くの需要があるとNYTは述べ、熱狂的な収集の原動力になっているのは、ほかのメディアにはない魅力があるという信念だとしている。

 レンタルソフトのビジネスを営む男性は、ストリーミングならどんな作品でもすぐに見られるというのは間違いだとする。実は新作は非常に高価で、コンテンツは定額制サービスの間で分裂しており、映画は周期的に動かされているため、見ようと思ったときには消えていることもあると述べる。一方VHSでなら、現在のマーケットでは見られない多様な作品が手に入るとしている(NYT)。

 コレクターにとって、VHSは文化そのものだ。1960年代序盤から1980年代序盤に生まれたジェネレーションX世代にとっては、親に連れられレンタルビデオ店に出かけることは日頃の習慣だった。VHSを収集することは、楽しい子供時代をフラッシュバックさせてくれるという。他人にとっては時代遅れの使えないガラクタだが、彼らはデジタルにはない正統派の魅力をVHSに感じている(NBC)。NYTは、1980年代に子供時代を過ごした人には、VHSは「巨大なノスタルジア」だと述べる。この世代はインターネットや携帯、ソーシャルメディアなしで育った最後の世代とも言え、古いアナログ式が自然に感じられるらしい。

 VHSは若い世代にも注目されている。29歳のヒップホップ・アーティストは、「深夜に親が寝静まった後に友達の家で見たであろう、VHSの奇妙で意味不明の映画」の音を自分の作品のなかで再現しようとしている。彼は自分の作品を「ミッド・ローファイ」と表現し、そのクオリティはありのままで温かく、味わいがある感じだと述べる。イェール大学の研究者は、人々は「VHS時代のオーラに郷愁を感じている」と解説している(NYT)。

◆高額取引をファクトチェック 実際の価格は?
 さて、古いVHSテープが高額で取引されているというニュースに関してだが、ファクトチェック・サイト『Snopes』は、真偽は公正に評価できないと結論づけている。

 同サイトによれば、1982年リリースの『スター・ウォーズ』のハードケース付きVHS版、ビートルズの映画『レット・イット・ビー』の1982年のオリジナルVHS版は、レア物として100ドル(約1万1000円)以上の価値があるということだ。また、ハルク・ホーガンをフィーチャーしたプロレスのイベント「WCWバッシュ・アット・ザ・ビーチ」の2000年版は500ドル(約5万5000円)で取引されているという。

 しかし、『リトル・マーメイド』はeBayでは10~15ドル(約1100円~1700円)が相場、数千~数万ドルの値がつけられているクラシックアニメなどでも、実際は15ドル以下が妥当なところだという。売り手が法外な値段をつけている場合が多く、本当にその価格で買った人がいたのかどうかは不明だと同サイトは述べている。こういった売り手は、新規参入アカウントで、評価がない場合がほとんどだという。家で眠っているVHSで一儲けというのは、かなり難しいようだ。

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Text by 山川 真智子