地球最後のブロックバスター、ノスタルジー求め世界から客が訪問

AP Photo / Gillian Flaccus

 レンタルビデオチェーン「ブロックバスター」の地球上で最後の店舗の運営には、いくつかの課題を伴う。

 コンピューターシステムの再起動にはフロッピーディスクが必要であり、その方法は、確固たるX世代(1960年代から70年代生まれの世代)のゼネラルマネージャーのみが知る。ドットマトリクスプリンターが故障したため、店員はメンバーカードを手書きで作成している。さらに、取引データはオープンリール型テープに記録されているが、家電量販店ラジオシャックが閉店したため交換することができない。

 とはいえ、これらが原因でオレゴンの小さなショッピングセンターにある質素なフランチャイズ店舗の発展が妨げられてきたわけではない。オンデマンドの映画ストリーミングサービスの台頭によって、レンタルビデオチェーンは退廃した。オーストラリアのブロックバスターが3月31日を最後に看板を下ろすと、オレゴン州ベンドにある店舗は地球上に残された唯一のブロックバスターとなる。

「1つには、純粋に意地がありました。私たちは降参したくなかったのです。経費を削減し、営業を継続させるためにできることはすべて行いました」と、ブロックバスターでゼネラルマネージャーを務めるサンディ・ハーディング氏は述べる。ここで15年間働いているハーディング氏は、倒産後も同フランチャイズ店舗を十分に存続させ、多くの功績を残している。

 この店舗のオーナーであるケン・ティッシャー氏と妻のデビーは、かつてオレゴン州中部に位置する3都市においてブロックバスター5店舗を経営していた。しかし昨年には、ベンドのブロックバスターが地域で最後に残る店舗となった。

 運営費が抑えられているため、生き残った店舗を新しいものへ改良するための資金はない。この状況が今、利益をもたらしている。ポップコーンシーリング(アスベストが吹き付けられた天井)や薄暗い蛍光灯、メタル製ビデオラック。そしてある年代の文化を象徴する、チケット半券をモチーフにしたおなじみの黄色と青のロゴ。初めてここを訪れる特定の年齢の顧客は、ノスタルジーの念に駆られて足を止める。

「その年代の人たちであれば、ビデオを借りようとしたときに、どのような映画を見に行ったかよりも、一緒に行った相手や、映画館の通路を歩くときの解放感を思い出す人が多いのでは、と考えます」と、地元に住むジーク・カム氏は述べる。カム氏は友人と『The Last Blockbuster(最後のブロックバスター)』という題名のドキュメンタリーを作成中だ。

「多くの町において、夜9時を過ぎて開いている場所はブロックバスターだけでした。そしてその多くは深夜12時まで営業していました。不良グループではない子供たちはここに来て映画を鑑賞し、映画に心を奪われたものです」

 ベンドの店舗は、2000年にブロックバスターのフランチャイズに加わるまでの8年間、個人経営のレンタルビデオ店として地域で営業していた。この高地にある砂漠の町が、田舎特有の活気のない地域だった時代である。

 店員のおすすめ映画や、レンタル品目を追加するための「お願いリスト」、また、車の運転ができない数人のお得意様にはお届けサービスを提供するといった独自のスタイルに惹かれ、顧客は戻り続けた。何十人もの地元の若者が何年にもわたって、このブロックバスターで働いてきた。

 その後の2010年、ブロックバスターは破産を宣告した。そして2014年までには直営店全店舗を閉鎖した。残された地域主体のフランチャイズ店舗が自力で何とか営業を続けたものの、次第に数を減らし、閉店が続いた。

 2018年の夏、アラスカ州アンカレッジとフェアバンクスの店舗が閉店した。オレゴン州レドモンドの店舗もほとんど存続できておらず、アメリカ国内のブロックバスターはベンドの店舗のみとなった。

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 観光客がセルフィを撮るために立ち寄り始め、商売は次第に回復した。ハーディング氏は、「The Last Blockbuster in America(アメリカ最後のブロックバスター)」の刺繍が施された黄色と青モチーフのアイテムを地元の販売店に注文した。トレーナーやTシャツ、マグカップ、マグネット、バンパーステッカー、帽子、そしてストッキングキャップだ。そして商品は飛ぶように売れた。

 2019年3月、ハーディング氏のもとに電話がかかってきた。オーストラリアのパースにある、世界中に残っているもう1つのブロックバスターが間もなく閉店するという。メッセージを「The Last Blockbuster on the Planet(地球上最後のブロックバスター)」に変え、新しくTシャツを注文した。ベンドのブロックバスターは、ヨーロッパやアジアなど遠方からセルフィーを撮る観光客が訪れ、新たなトレンドとなっていた。

 最近のとある平日、オーストラリア・メルボルン在住のマイケル・トロヴァト氏は、ベンドに住む双子の姉妹を訪れた際、ブロックバスターに立ち寄った。

 写真撮影を終え、トロヴァト氏は話し始めた。コンピューター・アルゴリズムに基づいたお勧め映画をストリーミングサービスに提示されるのではなく、何百もあるタイトルを見て回り、店員から聞いた情報をもとに映画を選んでいた時代を懐かしく思うという。

「ブロックバスターやCDショップに入り、そういった社交的な経験を得たり、人々が商品を見たり誰かと話をしているのを眺めたり……このようなことができないのはとても寂しいです。見栄えする音楽サービスや、もちろんインターネットからも得られない、特別で大切なことなのです」と、トロヴァト氏は話す。

 ベンドのブロックバスターは、近いうちに閉鎖する危機はないようだ。

 新たに成した名のおかげで、店は元気を取り戻しつつある。40ドルのトレーナーや20ドルのTシャツ、ハーディング氏自ら編んだ15ドルの黄色と青のニット帽などを購入する顧客が次々に来店する。衛星放送サービスのディッシュ・ネットワークに対し、ブロックバスターのロゴ使用権料を支払い、その契約は数年残っている。

 店に設置されたボックスには、人々から古いVHSテープやDVDが日常的に送付されてくる。また、ブロックバスターのデニムジャケットやキーホルダー、昔のメンバーズカードなどの記念グッズも寄贈されている。

 店長のダン・モントゴメリー氏によると、店員はお礼の手紙をいつも送っているという。

 最近ハーディング氏は、希望を感じられるような新しいタイプの顧客の存在に気がついた。昔を懐かしむ両親に連れられた、新しい世代の子供たちである。レンタルした映画とキャンディーを山盛り抱え、幸せいっぱいに店を後にする。

 ジェリー・ギレス氏と妻のエリザベスは、3歳のジョンと5歳のエレン、2人の子供を連れて来店した。ギレス夫妻は、「ピーターパン」と「ライオンキング」をつかみ、恐竜のアニメ映画を探して列から列へと歩き回る子供たちを笑顔で見つめていた。

「立ち寄らないわけがありません。ここが最後のブロックバスターなのです」と、ギレス氏は述べる。休暇中、テネシー州メンフィスから回り道をして立ち寄った。「iPadにあるものがすべてではないと、子供たちに経験させたいのです」と話す。

By GILLIAN FLACCUS Associated Press
Translated by Mana Ishizuki

Text by AP