手に埋め込んだチップで決済、スウェーデンで広がる チケットや鍵にも

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◆「ハッキングされにくい」
 チップは「埋め込みパーティー」に参加すれば、プロに埋め込んでもらうことができる。費用は約1万8千円。埋め込み時の痛みはほんの少しだという。北欧のニュースをまとめているデイリー・スカンジナビアンによると、チップ埋め込み費用を出してくれる会社もいくつかあるそうだ。

 チップの埋め込みを広めたのは、Jowan Österlund氏が設立したスウェーデンのBiohaxだ。Österlund氏は「チップはスマホよりも安全だ」と言う。

 チップにはGPSは搭載されていないため、居場所を特定されるという心配は誤解だという。今後チップ内で保管できるデータ量が多くなればハッキングされやすくなるといった懸念もあるが、チップは特別の機器やアプリに触れるくらいまで近づけたときにだけ反応するため、それ以外では情報は盗まれにくいと説明する。

◆便利、見せびらかしたい、これぞ未来の姿
 小さな社会現象ともいえるチップの埋め込みは、各メディアで指摘されているように、スウェーデンがデジタル社会で、スウェーデン人がテクノロジーの可能性を深く信用していることが背景にある。

 スウェーデンは、キャッシュレス先進国として知られている。スウェーデンを訪れた人ならすぐ実感できるが、本当にいたるところでカード払いやスマホ決済ができる。スウェーデンでは、いまや5人に1人がATM(現金自動預け払い機)を使わず、2018年は現金で買い物をした人は約10人に1人だけだった。18~24歳だと、最大95%の買い物がキャッシュレスだ。全国の銀行店舗1400のおよそ半数では、現金の預け入れが拒否される。ちなみに、現金をあまり扱わないのは銀行強盗を防ぐためでもある(ニューヨーク・タイムズ)。

 テクノロジーに頼ったこのような環境に住んでいたら、きっと、チップの埋め込みへの抵抗感は少ないのだろう。とはいえ「そこまでするのか!」といった感想を持つのは筆者だけではないはず。

「サイボーグ」になる人がスウェーデンで多いのは、やはり便利だからだろう。カードもチケットも鍵も忘れたり紛失したりすることはある。体内にチップがあればその心配は無用だ。もう一つは、先のエコノミスト誌いわく、自己顕示欲の強さ(見せびらかしたい気持ちが強い)が関係しているのかもしれない。また、スイスの高級紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥングがスウェーデンで取材したように「これぞ未来像」だと思う人も確実にいるだろう。

 チップ現象には、日本からも関心が寄せられている。米ビジネス雑誌フォーチュンによれば、昨夏、東京オリンピック委員会関連の企業の代表者たちが、ゲーム開催中、ひょっとしたらチップ埋め込みを利用できないかとÖsterlund氏に会いに来たという。日本でも、手にチップを埋め込む人は増えるのだろうか。

Text by 岩澤 里美