性別欄「X」の旅券、メキシコ発行 「逆に差別生む」と性的少数者から批判も

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◆アメリカにおける「X ジェンダー」パスポートの現状
 現在メキシコを除き、性別表記にXを記載できるパスポートを発行している国は、アルゼンチン、オーストラリア、カナダ、コロンビア、パキスタン、インド、ネパールなど、世界各地域の国を含む16ヶ国ある。アメリカは昨年4月から発行を開始した。ちなみにアメリカにしてもカナダにしても、項目名の表記は性(sex)となっており、性とジェンダーの区別が曖昧になっているというのはメキシコだけの問題ではないようだ。

 しかしながら課題はそれだけではない。Xという表記に対応したパスポートを発行できる施設は、全米でアリゾナ州の1ヶ所しかなく、発行には追加の時間がかかり、緊急の場合は、とりあえずF(女性)かM(男性)のどちらかで発行されるという現状がある。モデルとして活躍するデヴィン・ノレルは、自身の経験を一連のツイッタースレッドで投稿した。そもそも、国務省のサイトによると、アメリカでパスポートを申請する場合、通常処理では10〜13週間もの時間を要し、短縮させたとしても7〜9週間もかかるとある。ノレルの場合、十分な余裕を持って申請をしたつもりだったが、旅行の予定が迫り、直接パスポート発行施設に赴いたが、アリゾナ州でしかXの記号を印刷できないため、結局とりあえずはMと印刷されたパスポートを発行する以外なかった。再発行は無料でできるものの、さらに6〜9週間の時間がかかると言われたそうだ。国務省の計画では、年内にはどこの州でも発行できるようになるとのことだが、国務省からXの導入が発表されたのが2022年3月であることを考えると、ノレルの不満も理解できなくない。

 インクルーシブな社会を実現するための取り組みが、物理的な制約に阻まれているという現状がある。また、そもそもパスポートに性別表記が必要なのかという本質的な問題もある。たとえばブロックチェーンの技術などで、紙のパスポートに変わる新たな本人認証が可能になれば、パスポート自体がもっと非差別的で融通が効くようなものになっていくことも考えられる。現状、さまざまな制約があるなか、既存のパスポートの仕組み自体、見直されるべきかもしれない。

Text by MAKI NAKATA