上野千鶴子氏インタビュー「日本の寛容さを世界に示せるように」 2020年にむけて

——新しく就任したマリン首相は社会的弱者の代表のような人です(マリン首相は女性で、フィンランド史上最年少の首相。両親の離婚後、母親と同性のパートナーに育てられたが、経済的に苦しかった)。このような人々が指導者になれる社会にするために最も重要な社会的要素は何でしょうか。

 高等教育の無償化でしょう。日本では、保育園などには低所得者対策がありますが、高等教育に行くほど保護者のコスト負担が大きくなります。だいたい、私立に「合わせる」ために国立大学が授業料を上げるなど、理屈にならないことをやっています。

 また、クオータ制(人口構成を反映して、政治などの分野での男女比率の偏りをなくす制度)にしても、「日本の風土に合わない」なんて意味不明なことを言う男性議員がいまだにいます。

 まあ、「危機が来ると女頼み」なんてこともありますから、ひょっとしたら女性指導者誕生、なんてこともあるかもしれませんが(笑)。

——昨年末、伊藤詩織さんの民事訴訟勝訴と、WEFジェンダーギャップ指数がさらに落ち、153ヶ国中121位という、対照的な二つのニュースがほぼ同時にありました。これらが象徴する日本の社会とは? 何が変わり、何が変わっていないのでしょうか。

 詩織さんの勝訴については、自分のことのように喜んだ女性たちがたくさんいました。性暴力に対する許容度がかつてより大きく下がってきていると感じます。昨年の岡崎性暴力事件(実父が娘を13歳から19歳にかけて強姦してきた事件)の無罪判決でも、多くの女性法曹が怒りの声をあげました。

 10年前、フェミニズムには激しい逆風が吹いていました。それがここ2、3年で風向きが変わったのを肌で感じています。若い女性たちがNOと言えることに気づき始めたのも喜ばしいことです。また、以前のようなフェミニズムアレルギーもなくなってきたように思います。ひと昔前までは「フェミニズム」や「ジェンダー」などがタイトルに入った本は出版さえできませんでしたが、いまではたくさんの本が出版され、しかも売れ行きも好調です。

 ジェンダーギャップ指数が下がったのは、日本が悪くなったのではなく、ほかの国が頑張って改善の努力をしているからでしょう。たとえば男女間の賃金格差ひとつとっても、多くの国でその差が縮まりつつあります。変化に取り残されると、これからますます下がっていく一方です。男女格差問題だけでなく、政治でも、経済でも、国際関係でも、変わらなければじり貧になるだけです。

——最後に、2020年、私たちの目指すべきことは。

 今年はオリンピックとパラリンピックという大イベントがあります。オリンピックには乗れませんが、パラリンピックは歓迎です。ジェンダー、マイノリティ、ディスアビリティなど、各方面に対して東京のバリアフリー度が試されます。この意味で、昨年ラグビーのワールドカップをホストしたのはとてもいい経験になったと思います。

 各自治体が各国選手の受け入れもしますから、そうなると、これまで一度も外国に行ったことがないような人たちも、必然的に外国人と接することになります。たとえば一口にアメリカ代表といっても、アフリカ系もいればアジア系もヒスパニック系もいる。そういう、いろいろな「違い」を経験するでしょう。

 フェミニズムが浸透してきたことを追い風に、「違い」を受容できる国、「ダイバーシティ」に寛容な国であることを世界に示したい。そういう国になれればいいなと思っています。

Text by モーゲンスタン陽子