フィンランド:トナカイと生きるサーミの女性が気候変動の脅威に立ち向かう

インカ・サーラ・アルティイェフは、サーミ議会の議長のアドバイザーを務める、サーミのトナカイ遊牧民一家の出身だ。また、国連気候変動サミットのフィンランド代表でもある。写真提供:ソ二ヤ・ナラン/PRI

 サーミ村の住居で、アルティイェフと彼女の伯父が地域の樹木の伐採に関して話し合っている。68歳になるサーミ人のカレ・パアダーは、これまでずっとトナカイの遊牧をしてきた。彼は、林業活動が考えられている以上に重大な問題をもたらすと説明する。森林が伐採されると、森の植物は変化し、トナカイの遊牧のルートも変わってくる。そして森林伐採は、無駄な材木も生み出している。この材木が地上に散らかり、トナカイの餌の資源を隠してしまうのだ。「トナカイの遊牧をするためには、健全な森林が必要です」とアルティイェフは話す。

トナカイの遊牧と母親業

 サーラ・テルヴァニエミも林業をこの地域の最も深刻な脅威の一つであると指摘する。彼女はトナカイ遊牧民であり3児の母だ。「林業のせいで私たちは冬の牧草地を失い続けています」と彼女はサーミ議会の本部内で話す。

                                                                                                                 

 国営の林野事業を営むメッツァハリトゥスは、フィンランドにおける3分の1の森林を管理しており、木材の収穫と販売も行っている。 メッツァハリトゥスは、トナカイの遊牧範囲の木の伐採についてサーミ人コミュニティーと話し合いながら、密接に働きかけていると、メッツァハリトゥスの地域統括部長及び環境スペシャリストのキルシ・マルヤ・コルホネンは言う。 コルホネンは、サーミの土地の60パーセントの木が保護区域にあると言及する。 しかし、サーミの森林の大部分はまだ誰でも手に入れられる状態だと、トナカイ遊牧民たちは言う。そして、営利的な皆伐が行われていることも指摘する。

 テルヴァニエミは、彼女たちが暮らす土地の林業活動を注視することが肝心であると言う。森林伐採が、子供たちへ引き継いでいきたい文化を損なっているからだ。 テルヴァニエミは幼い頃、父とトナカイの群れを駆り集めながら、遊牧のやり方を覚えた。 そして彼女の子供たちは、両親の生き方を引き継ぐことを望んでいる。

 「私たちの地域で、トナカイの遊牧がたくさんの大問題を抱えていることは知られています。だから母親として、子供たちがトナカイ遊牧民になるのを夢見ていると思うのがつらいです」と彼女は言う。「もし森林伐採がこのまま計画通りに進めば、子供たちがトナカイ遊牧民になるのは本当に難しくなります」

サーミ議会のメンバーのサーラ・テルヴァニエミは、彼女の3人の幼い子供がトナカイ遊牧民になることを夢見ていると言う。提供:ソ二ヤ・ナラン/PRI

 テルヴァニエミによると、この生き方はサーミ人の血に流れているという。「私の夫や地域のトナカイ遊牧民に何か別の仕事を探すように言っても、トナカイ遊牧民以外の選択肢があるとは思いません。 皆トナカイを遊牧して成長してきたのです。 これが私たちの人生です。これが私たちが存在していく道なのです」と彼女は言う。

 37歳のテルヴァニエミは、4か国のサーミ人代表で構成されるサーミ議会のメンバーだ。「自分たちの暮らしと文化を大切にするためには、誰もが少しは活動家であるべきです」と彼女は言う。 テルヴァニエミによると、サーミ人の女性は、常に男性と平等の立場にあり、多くの女性が政治的組織内で重要な役割を果たしているという。テルヴァニエミもサーミ人をテーマに博士論文を執筆している。

 このことは男女数が平等に割り当てられ、女性が議長を務めているフィンランドのサーミ議会においても明らかだ。また、サーミ人の太古の母と父の間に生まれた神話上の娘にちなんで名づけられた、サラッカという地域の女性グループや、サーミ・ニッソンフォーラム(女性の公開討論会)も北国出身の女性たちを団結させている。彼女たちはジェンダーの平等権、土地の権利と水利権を含む先住民の政治問題に焦点を当てている。

 サーミの女性たちは、主に子育てと次世代へ文化を継承する役割を担っていることから、トナカイの遊牧は彼女たちにとって重要なテーマとなっている。特に近年、森林伐採と気候変動が激しくなってきてからだ。

フィンランドの75パーセントは森に覆われている。そして、サーミのトナカイ遊牧民たちは放牧地に生える木の伐採に懸念を抱いている。この写真は、フィンランド北部に建っているサーミ議会の建物から望むことのできる景色だ。提供:ソ二ヤ・ナラン/PRI

 「トナカイ自体がサーミの文化にとって、とても重要な意味があります」とテルヴァニエミは言い、「自然の中で、トナカイと共に生きる。これがとても素敵なんです」と付け加える。

 アルティイェフもサーミ人とトナカイの絆について嬉しそうに話す。「トナカイを見られなくなったら、寂しくなります。トナカイの匂い、姿、鳴き声全部です。トナカイも私たちの声が分かるので、呼ぶとこっちに来てくれます」

 危機的状況にあるのは、トナカイの遊牧だけではない。その他サーミ人の暮らしを支える漁業、収穫、狩猟、手工芸の4つについても同じだ。「これら全ての仕事は、自然によって成り立っています」とアルティイェフは言う。「もし自然が変化すると、伝統的な暮らしをこれ以上続けられなくなってしまいます。そうなると、私たちの何もかもが変わってしまうことになります」

 ソニア・ナランはフィンランドで、ヨーロッパ森林研究所のプログラムLookout360 Climate Change Immersive Story Accelerator(360度カメラを使って、気候変動の世界をバーチャル・リアリティで体験する動画発信をすすめるプログラム)の援助を受けリポートした。


This article was originally published on Global Voices(日本語). Read the original article.
Translated by Kouhei Kanou.
Proofreading:Moegi Tanaka.

Text by Global Voices