このままではパリ協定の目標は全く無理、ICPP報告 リーダー不在響く

Nicole S Glass / Shutterstock.com

◆時間はない 新技術や再エネに期待
 報告書の著者の1人である英インペリアル・カレッジのジム・スキー教授は、気温上昇を1.5度に抑制するには、二酸化炭素の排出を2030年までに45%削減し、2050年には排出量を正味ゼロにする必要があるという。そのためには「迅速かつ広範囲な」変化が求められるとし、具体的方法には、森林再生、土壌の炭素貯留、空気中の二酸化炭素回収などを上げている(フィナンシャル・タイムズ紙)。

 ワシントンポスト紙(WP)は、人間のエネルギー消費を大きく減らすことや、質の低い石炭による発電をやめ、再生可能エネルギーを増やすことが必要だとしている。国際エネルギー機関のファティ・ビロル氏によれば、再エネは成長しているが、化石燃料使用のトレンド低下につながるほどではないとされ、2018年の世界の二酸化炭素排出量は増えると見られている。

◆リーダー不在 トランプ政権は逆走中
 ガーディアン紙によれば、科学者たちは、目標達成のために必要とされるエネルギー、輸送、土地利用の大々的な転換は技術的に可能だが、現在のところ実現しそうにないと警告している。理由はリーダーの不在だ。テキサスA&M大学の科学者、アンドリュー・デスラー氏は、リーダーシップのある国際的合意が必要であり、アメリカがリーダーの役割を担えればよいが、他の国にやってもらわざるを得ないと同紙に話す。そしてトランプ政権は温暖化の事実を無視しようとしており、この危機を国民に知らせないことはまさに失敗だと嘆いている。

 トランプ大統領は以前に気候変動は「でっちあげだ」と述べ、パリ協定からの離脱を表明している。そのうえ政権は二酸化炭素排出量削減への求めを無視し、石炭エネルギーを擁護し、車両の排ガス規制を緩和してきた。CNNは、今回の報告書に対しても、トランプ大統領は読んではみると答えたものの、懐疑的な姿勢をあらわにしたと報じている。

 WPは、今行動を起こすべきで、温暖化対策は困難だが不可能ではないと主張する。それにもかかわらず政権はトライしないだけでなく、逆方向に向かっているとし、その事実は後の歴史家の目には、全くの驚きとして映ることだろうとしている。

Text by 山川 真智子