物の値段を考える 2

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 こうした新しい流れを汲んで登場してきたブランドの中に、「ラディカルな透明性」というコンセプトを掲げて登場したサンフランシスコ生まれの〈エヴァーレーン〉がある。サイトを訪れると、それぞれの商品に素材の説明、縫製工場の名前などが記載されている。たとえば〈エヴァーレーン〉が2011年のブランドの立ち上げとともに販売を開始したロングセラー、白いTシャツを見てみよう。フィットや素材についての説明とともに、工場の場所が「ロサンゼルス」と書かれている。横のリンクをクリックすると、場所や従業員数、オーナーの名前などについての詳細や、工場の写真を見られるようになっている。

 けれど「ラディカルな透明性」のいちばん重要なポイントは、価格の内訳を公開しているところだ。立ち上げの際には16ドルだったTシャツには今、18ドルの値段がついている。原材料(1.79ドル)、労働(5.35ドル)、関税(1.22ドル)、輸送費(0.13ドル)など、同社にかかるコスト約9ドルの内訳が明示され「伝統的な小売価格45ドル」と書かれている。つまり〈エヴァーレーン〉によると、このコストに店舗などのコストを乗せるという既存の値付けの方程式を使うと、1枚作るのにかかるコストは9ドルだとしても、店に並ぶ頃には40ドルを超えてしまう。

 〈エヴァーレーン〉ファウンダーのマイケル・プレイズマンに会ったことがあるが、自分が消費者として「何にお金を払っているかわからない状態」にフラストレーションを感じていたと教えてくれた。

「ファストファッションとハイファッションのあいだに大きなギャップがある。消費者の立場から見ると、Tシャツひとつとっても、5ドルのものと、30ドルのものと、150ドルのものがあって、どうやって価格が決められているのか、自分が何にお金を払っているのかまったくわからない。その状況に不誠実さを感じたし、正直でわかりやすいシステムを作りたかった。シンプルに値付けされていて、でもモノとしても美しい、という衣類に対する欲望が消費者の側に芽生えていると思ったんだ」

 その結果生まれたのが、できるだけ高いクオリティのものを追求し、その価格決定の過程を開示しながら、正当な価格で売る、というやり方だったとマイケルは言う。「可能なかぎり高クオリティ」を目指して作ったTシャツは、1枚18ドルという価格だけ見ると、ハイファッションよりもファストファッションに近い。けれど値付けの内訳を説明することで、リーズナブルな価格についての印象をがらりと変えることに成功した。

「完璧なTシャツ」というキャッチフレーズで世の中の注目を集めた〈エヴァーレーン〉は、100%コットンを国内の工場で縫製した高クオリティの商品を18ドルで売ることができると証明し、インターネット直売りで成長したが、今ではニューヨークとサンフランシスコに実店舗を持つに至った。〈エヴァーレーン〉が人気を博した背景には、マイケルのように、ものづくりの既存の値付けに不誠実さを感じていたり、ものづくりの過程に投資したいと思う消費者が増えていることがあるように思う。今、ブランドの名前よりも実質的なクオリティやバリューが求められている。「安い」だけのファストファッションも、ブランド力だけに頼るハイファッションも、消費者マインドのシフトから取り残されていくのだろう。

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Text by 佐久間 裕美子

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