素材のことを考える 1

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 この報告書によると、ナイロンやポリエステルが海や水路のマイクロファイバー汚染の一因となっており、パタゴニアの商品も、この問題に加担してしまっているそのうえで、同じナイロンやポリエステルによる汚染の量を左右するのは、洗濯によって抜け落ちる毛の量である。つまり、たとえ同じフリース素材でも、抜け落ちる毛の多い低クオリティのものほど、マイクロファイバー汚染へ加担する確率は高くなる。実際、パタゴニアの商品に比べ、170%ほどもマイクロファイバーが抜け落ちるものもあるという。

 このレポートは、消費者側がマイクロファイバー汚染を軽減するためにできることも、明記している。たとえば縦型(トップローダー)の洗濯機は、横から開けるタイプのドラム型洗濯機よりも、排出するマイクロファイバーが7倍以上もの量になる、つまりドラム型洗濯機を使えば水に流れるマイクロファイバーを減らすことができる。また、洗濯用のフィルターに化繊の衣類を入れれば、マイクロファイバーの排出をある程度までは防ぐことができる。

 長年、フリースという素材で作られた衣服を愛用してきた自分にとって、この報告書は衝撃的だった。そしてそれをきっかけに、繊維が環境に与えるインパクトについて、さらに考えるようになった。そうやっていろいろ調べていくと、自分が知っていると思っていたことに、たくさんの間違いがあることに気がついた。

 たとえば、私はそれまでも、防水や撥水の機能が必要でないアイテムを購入するときには、天然素材のものをなるべく買うようにしてきた。特に肌に触れるものが化繊だと、自分の肌が反応して湿疹などが出たりする。天然のものであれば肌にも良いし、最終的に捨てたとしても土に還すことができる。だから大丈夫なのだと漠然とした安心感を抱いていた。

 ところが、天然素材=環境へのインパクトがない、と考えるのは間違いだった。その一例に、コットンを作るための綿花の栽培がある。育てるために大量の水を必要とする綿花の栽培は、環境に慎重に配慮しなければ、多大なる環境破壊につながる。たとえばカザフスタンとウズベキスタンにまたがるアラル海(塩湖)の周辺は、1940年代からソ連が国をあげて、綿花を大量に栽培したエリアだった。このためソ連は、アラル海に流れ込んでいた川から水を引いて灌漑して、運河を作った。計画通りの生産量を達成したはいいけれど、灌漑のおかげでアラル海に流れ込む河川の水の量は激減し、水位が低下し、徐々に湖の面積は小さくなった。周辺地域の住民が従事していた漁業は衰退し、大地が干上がったことで砂嵐が起きて、住民が呼吸器系の疾患などに苦しむようになった。かつて世界第4位の面積を誇った湖は今は大幅に縮小してしまい、いつか消滅するのではないかと危惧されている。

 また、前回も少し触れたように、綿の生産量を最大化するために長いあいだ、多くの生産者が大量の農薬を散布してきた。ケミカルな農薬は土壌を汚染し、農家や地元住民たちがアクセスする水を汚染する。当たり前のことながら、これによって環境・健康被害も起きる。だからこそ今、オーガニック・コットンの生産が注目されている。

 ところがオーガニック・コットンが環境にやさしく、人体に害を及ぼさないかというとそうではない。オーガニックな綿栽培には、19世紀から天然の殺虫剤として使われてきたロテノンという農薬(マメ科の植物デリスやクーべといった根から取れる)を用いることが多いが、これがパーキンソン病の発症につながるという調査結果が出ている。また、綿の有機栽培はコンベンショナルな(通常の)綿栽培に比べて生産高が低いため、同量の綿を作ろうとすると、労働量も使用する水の量も増えることになり、環境への負担が必ずしも小さいとは言えない。

 こうして調べれば調べるほど、「環境にやさしい素材」を探すことの難しさを痛感する。次回も引き続き、素材について知ったことを考えていきたいと思う。

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Text by 佐久間 裕美子