「エシカル」とファストファッション

© Yumiko Sakuma

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 昨年、ニューヨークのショップに取材をしていたときに、店の人が「最近、よく『この商品はエシカルですか?』と聞かれるの」と教えてくれた。“ethical”という言葉は日本語にすると、倫理的、ということである。けれども、何をもってして倫理的というのだろうか。

「具体的にはどういうことを気にするの?」と聞いてみると、「たとえば素材の生産過程で動物が虐待されていないか、労働環境が劣悪でない工場で縫製されているか」ということだった。要は、破壊行為に加担したくないということなのだろう。

 どうやらエシカル、という言葉は、サステイナブル(持続可能)という概念の延長線上にあるようだ。「持続可能性」という言葉が叫ばれるようになって久しいが、ようやくそのコンセプトが急務として認識されつつあるようになってきた感がある。持続可能性が謳われる背景には、このままの勢いで破壊的な消費路線を進み続けると持続できない状態になりますよ、という前提があるわけだけれど、話を進める前に、軽く歴史を振り返っておきたい。

 1990年代にアメリカのパタゴニアやイギリスのザ・ボディショップといったパイオニア企業が、環境保護の見地から、素材の再検討やリサイクル、リユースに乗り出し、消費主義の見直しを提唱するようになったのを皮切りに、「グリーン」「エコ」という言葉が使われだした。こうしたブランドはファッションや消費文化の一角を占めながら、自らのブランドを使っての環境アクティビズムに従事した。アル・ゴア元アメリカ副大統領による映画と書籍『不都合な真実』によって温暖化に対抗するための環境アクティビズムが盛り上がると、「サステイナブル」という言葉が普及した。その後、2000年代に入ってファストファッションが台頭すると、これに反対するスローファッションという言葉を耳にするようになった。

 今、「エシカル」と「持続可能性」という言葉は、ほぼ同列に、同様の範囲をカバーしながら使われているが、ファッション業界による環境破壊の規模が理解される過程で、その言葉の意味は変容し、進化し続けている。エシカル、サステイナビリティという二語が今、具体的に意味することは、デザイン、生産、流通、小売といったプロセスすべてにおいて、従事する人たちの労働条件から、開発途上国とのフェアトレード、サステイナブルな製造過程、環境への配慮、動物の扱いまで、倫理的かつ持続可能な方法を探っていこうということである。エシカル、サステイナブルと言っても、たくさんの事象が交錯しているので、全体像を掴むのはなかなか簡単ではない。整理するために、今の「倫理的」の内容をこんなふうにまとめてみた。

1. 企業の傘下、または下請けの工場で働く人たちの労働環境。清潔かつ働きやすい環境が保たれているか、従業員たちの福祉は考慮されているか、労働時間は管理されているか、就業時間や残業に対して正当な賃金が支払われているか、未成年が労働に従事させられていないか。

2. テキスタイルの生産過程。土壌や水、労働者、さらにはそのテキスタイルを使って出来た服に、人体に有害な農薬あるいは化学染料が使われていないか。生産にどれだけ水を使用しているか。素材はバイオディグレーダブル(分解可能)か、つまり、埋立地の一部として存在し続けるのか、そうではなく土に帰すことができるのか。

3. 動物の使われ方。カシミア、ウールなどにその毛を使われる動物は、人道的な方法で飼育されているか。

4. 流通・販売などにかかる環境コスト。素材や商品をどのように輸送しているか。梱包・包装に使われる資材に無駄はないか。またはリサイクル資材が使われているか。ゴミの管理はどのようにされているか。廃材が再利用されているか。

5. 雇用。女性、性的マイノリティ、人種的マイノリティを雇用し、多様性のある職環境を実現しているか。また、それを改善するために何が行なわれているか。労働時間や残業時間はリーズナブルか。育児休暇、健康保険などの福利厚生が整備されているか。

 つまり、エシカルなサステナビリティという考え方は、経済、環境、人権の3つの分野から追求される。要は、人材や環境を大切にしているか、ということである。企業に求められるこうした「エシカル・スタンダード」は、一夜にして確立されたものではない。

Text by 佐久間 裕美子