トランプ派のヤジに応酬も バイデン氏の一般教書演説パフォーマンスは国民に伝わったか

Shawn Thew / Pool via AP

◆ホワイトハウス担当記者の分析:大統領選を強く意識した内容
 ニューヨークタイムズの看板ポッドキャスト『ザ・デイリー』では、SOTUに関してホワイトハウス担当記者のジム・タンカースリーの分析と見解を紹介。タンカースリーは、大統領選挙を控え、現職として必ずしも優勢ではない状況のなか、バイデン大統領はこの演説を通じて状況を打開する必要があったと述べたうえで、演説におけるハイライトを説明した。バイデンが冒頭のロシア・ウクライナ戦争と議会議事堂襲撃事件という文脈においてトランプ前大統領を直接的に批判したことは、「トランプがヨーロッパとアメリカの民主主義を脅かす存在だ」というメッセージであり、今回の演説全般においてトランプは名指しされない主人公であったと解説。また、経済政策に関しては、バイデン大統領が矢継ぎ早に自分の功績をあげていったことに対して驚きを交えた評価を下すとともに、若者の票を獲得するために若者向けの経済施策について戦略的に提示したと分析した。

 一方で、演説における山場の一つは、台本に書かれていなかった部分だ。議題は移民問題と国境警備の問題。バイデン大統領がこの箇所に差しかかると、共和党議員からのヤジが増え、保守派・トランプ派で知られるマージョリー・テイラー・グリーンが「say her name」と言って演説を中断させた。グリーンは当日、トランプの再選を主張するMAGAキャップと、「SAY HER NAME」と書かれたTシャツを着用して参加。演説の直前には同じ文言が書かれたバッチを大統領に渡していた。Say her nameとは、滞在許可証を持たない移民によって殺害されたとされるレイケン・ライリーを無視するなという意味で、メキシコ国境から入国する移民の記録的な急増について共和党員が大統領を批判する際、彼女の名前は象徴的な存在となっている。バイデン大統領はライリーに言及し、彼女の家族への配慮の言葉を口にしたものの、すぐさま批判をグリーンに返した。超党派の国境措置強化法案をブロックしているのはグリーン議員のような共和党員であり、彼らこそがライリーに代表される国民に責任を負っているのだというのが大統領の主張だ。

 現在81歳という高齢で次の任期を果たせるのかという疑問の声も上がっているが、今回のSOTUに関しては、まずまずのパフォーマンスを見せたのではないかとタンカースリー記者は評価する。一方で、たった一つの演説ですべてが変わることはないということも事実である。今回の演説がどう国民に伝わったかの判断は、世論調査の結果次第である。

Text by MAKI NAKATA