若さだけではない、仏新首相ガブリエル・アタルが期待を集める理由

Francois Mori / AP Photo

◆世界のメディアが注目する象徴的な存在
 34歳という年齢、フランス史上最も若い大統領となったエマニュエル・マクロンの就任当時を思い起こさせるような雰囲気と装いに、世界各地のメディアがアタルのことを「ベイビー・マクロン」や「クローン大統領」などと称して、首相就任のニュースを伝えている。スピード出世し、首相に大抜擢されたという印象を与えるが、彼の生い立ちやキャリアを考えると、アタルの首相就任はそこまで驚くべきことでもなさそうだ。

 若さだけでなく、そのパーソナルな側面も注目を集める要素となっている。アタルは自身がゲイであることを公表しており、過去、同じく政治家のステファン・セジュルネと市民パートナーシップ関係にもあった。15歳の少年がイジメで自殺する事件があった際、アタルはテレビインタビューに応じ、ゲイであることからイジメを受けていたことや、26歳の時、父親ががんで亡くなる直前に、自分がゲイであることを初めて伝えた感情的なエピソードについて語った

 一方、アタルに対してもX (旧ツイッター)上などで、ホモフォビアや反ユダヤ主義の攻撃的な投稿がなされ、こうした投稿に対し、フランスユダヤ人学生組合は制裁を要求している。LGBTQ+のコミュニティにとっては、ゲイの首相は象徴的な存在としては重要であることは間違いないが、象徴以上のアクションが期待されている

 次期大統領候補の期待も寄せられているアタルだが、就任直後のテレビインタビューでは、今はとにかく2024年にフォーカスするとコメント。中流階級に対する減税や気候変動対策について言及し、とにかく実行すること、結果を出すことにエネルギーを注ぐとの意気込みを示した。教育相として、制服の試験的再導入、アバヤの禁止、バカロレア日程の見直しなど、重要な意思決定を行った実績があるアタル。関係者との高度な調整能力が必要とされる首相という立場において、どれだけその手腕を発揮できるだろうか。マクロン大統領には、アタルの人気を活用することで、自身への支持を取り戻す狙いがあるとの指摘もあるが、アタルは大統領以上に存在感を発揮し、今後さらなる世界の注目を集めていくのではないだろうか。

Text by MAKI NAKATA