文化戦争の新たな武器となる剽窃問題 米大学長の辞任から広がる論争

米ハーバード大学長を辞任したクローディン・ゲイ氏|Steven Senne / AP Photo

◆剽窃問題が文化戦争の武器に
 アトランティックヴォックスは、剽窃問題がアメリカにおける文化戦争の新たな争点になっている点を指摘する。ヴォックスは、そもそも剽窃に関して単純かつ共通の定義が存在しておらず、学問分野によっても違いの認識があると指摘。ゲイの辞任を経て、左派の間ではゲイの行為が、アカデミアにおいて必ずしも珍しくない程度の間違いと言えるのか、疑いの余地がない剽窃として重く受け止められるべきなのかというような議論が浮上しているという。黒人学長のゲイに対する告発が、法制度などに組み込まれた人種差別に抗うための批判的人種理論(クリティカル・レイス・セオリー)に反対するルフォによってもたらされたことは、この剽窃問題の議論に影を落とす。ルフォは高等教育機関におけるダイバーシティやインクルージョンの仕組みを批判する立場を取っている。

 ヴォックスはさらに、「ChatGPT(チャットGPT)」など大規模言語モデル(これ自体が剽窃だという見方もある)を活用したAI(人工知能)技術が進展し、AIによる剽窃問題対策のためのサービスなども出現したことで、問題の指摘がより簡単になり、剽窃自体を実際に問題視しているかどうかは別として、政治的意図を持って特定の相手を攻撃する武器として使われつつあると指摘する。ゲイおよびアックマンの妻に対して指摘された剽窃問題は本質的に異なるものではないが、アックマンの反応はダブルスタンダード的であり、彼の狙いは剽窃問題の告発ではなく、ゲイなどの特定の人物や大学といった特定機関への攻撃であると捉えることもできなくない。

 アメリカを分断するさらなる要因の一つとして浮上した剽窃問題。ネイチャーは、今後生成AIの精度がより向上し、より普及し、オリジナルの創作が簡単になることで、剽窃問題そのものがなくなる可能性があると示唆する。しかしながら当面は、剽窃問題の告発が政治的意図を持った攻撃の武器として使われ続けることが懸念される。

Text by MAKI NAKATA