米大学の人種優遇「違憲」でどうなる? 25年前に禁止した州ではどうなったのか

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◆民主党は賛成、共和党は反対
 では一般のアメリカ人はアファーマティブ・アクションに対してどう思っているのだろうか? NBCニュースの世論調査によると、全体の53%が「アファーマティブ・アクションは良いアイデアで、必要とされている」と回答し、42%が「度を超えており、白人系とアジア系アメリカ人に対する差別となるため止めるべき」と回答している。またどの人種か、どちらの政党支持者に尋ねるかでも結果は変わる。ピュー研究所の世論調査によると、黒人系の47%がアファーマティブ・アクションを「支持する」、29%が「支持しない」と答えているのに対し、アジア系では52%、白人系では57%が「支持しない」と答えており、人種間による差が明確に表れた。しかし同研究所の調査ではアファーマティブ・アクションを「支持する」と答えた人が全体の33%しかおらず、50%は「支持しない」と答えている。また支持政党による回答にも大きな差があり、民主党支持者の54%が「支持する」、29%が「支持しない」と答えているのに対し、共和党支持者では14%が「支持する」、74%が「支持しない」と答えている。

 ここで注目したいのは黒人系アメリカ人のなかでもおよそ3割の人々が「支持しない」と答えていることである。その背景にはアファーマティブ・アクションを必要としない優秀な黒人学生が多数存在することがあるだろう。それらの人々はアファーマティブ・アクションの恩恵を受けなかったにもかかわらず、人種だけで白人系やアジア系の学生から「アファーマティブ・アクションを使ったから入学できた」というレッテルを貼られることになる。また本当に人種差別をなくしたいなら、アメリカのあらゆる地域において義務教育のレベルを公平な水準まで上げる努力が必要と感じる人も多いだろう。

◆住民投票で禁止のカリフォルニア州
 今回の最高裁判決のかなり以前にアファーマティブ・アクションが州法で禁止されていた州がある。それは全米でも最もリベラルな州の一つ、カリフォルニア州だ。同州では1996年に行われた住民投票の結果、1998年から州内の州立大学におけるアファーマティブ・アクションを禁止した。これにはカリフォルニア大学(UC)やカリフォルニア州立大学(CSU)機構に属する一連の大学が該当する。

 アファーマティブ・アクション禁止法施行後すぐ、カリフォルニア大学バークレー校やロサンゼルス校(UCLA)などトップレベルの大学において、黒人やラテン系アメリカ人学生の入学数が40%減少した。これらの学生は、同じUCでも前出の2校より入学難度が低い大学に行った場合が多いという。またアファーマティブ・アクション禁止法に影響されなかったスタンフォード大や南カリフォルニア大など有名私立大学に流れて行った可能性も高いだろう。そして同じ人種の学生数が減少したことにより、この2校に入学を希望する黒人やラテン系志願者自体が減少する結果となった。

 前出の2校ではその後25年間をかけて試行錯誤し、アファーマティブ・アクション以外の方法を使うことにより、ようやく学生のダイバーシティを取り戻しつつあるという。今後はアイビーリーグなどでも一時的に黒人やラテン系学生の入学数が激減する可能性が高いが、カリフォルニア大学2校の例から学ぶことでアファーマティブ・アクションを使わずダイバーシティを維持することは不可能ではなさそうだ。

Text by 川島 実佳