欧州、ヨウ素剤に客が殺到 ロシア侵攻で高まる核の恐怖

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◆放射性物質に対する万能薬ではない
 とはいえ、安定ヨウ素剤さえあれば被曝の恐れがないかというと、まったくそうではない。安定ヨウ素剤の効果は、「放射性ヨウ素による甲状腺の内部被ばくの予防又は低減」に限られ、「甲状腺以外の内部被ばく及び希ガス等による外部被ばくには全く効果がない」からだ。(原子力規制庁『安定ヨウ素剤の配布・服用に当たって』)

 さらに、甲状腺の内部被曝低減目的の服用にも注意事項は多い。適切な服用量を守ることは言わずと知れず、「放射性ヨウ素にばく露される24時間前からばく露後2時間まで」という服用のタイミングが非常に重要となる。「ばく露後16時間以降であればその効果はほとんどない」とされ、それどころか「ばく露後24時間以上経過して(中略)服用すると、(中略)有益性よりも有害性が大きくなる可能性」すらある。(同上)

◆40歳以上への効果なし
 また年齢も考慮すべき点だ。被曝による甲状腺がんなどの発症リスクは年齢が低いほど高いため、服用を優先すべきなのは未成年者や妊婦である。世界保健機関(WHO)も、40歳以上の人の安定ヨウ素剤服用効果はほとんど期待されないと考えている。フランスの原子力安全局(ASN)も指摘しているが、現時点においては安定ヨウ素剤の服用は意味がない。それどころか、むやみな服用は健康に害を及ぼす可能性すらある。安定ヨウ素剤の服用は「吐き気、嘔吐、腹痛、動悸」などの一時的な副作用や、まれに甲状腺機能亢進症などの発症をもたらすこともあるからだ(ラ・デペシェ紙、3/5)。

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Text by 冠ゆき