接種先進国でワクチン大量廃棄 期限切れ、他国に送るのも困難

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◆制度や政策が壁に 期限切れを待つのみ
 アメリカでは、多くの州が余ったワクチンを海外に送ることを求めているが、一度各州向けに出荷されたワクチンは、連邦政府の規制によって回収することができないという。また、カナダのようにアメリカの州で余ったワクチンの提供を断る国もある。(NYT)

 オランダでも、医師のグループがワクチンを他国に送ろうとしてきたが、一旦患者のために医師に届けられた医薬品は取引することができないという法律に阻まれている(BMJ)。

 イギリスでは1回目接種後8~12週間の間隔を置いて2回目を接種することが推奨されている。捨てるぐらいなら、早めに2回目の接種をすべきで、とくに若者が早期に2度の接種を終えることが感染抑制に有効だという意見もあるが、政府の方針がそれを難しくしている。(インデペンデント紙)

◆送るだけではだめ、途上国でも無駄に
 ワクチンを廃棄しているのは実は先進国だけではない。アフリカでも大量のワクチンが使われず、廃棄されたり返却されたりしているとBBCが報じている。マラウィではほぼ2万回分のアストラゼネカ製ワクチンが廃棄され、南スーダンも5万9000回分を廃棄すると発表した。両国ともアフリカ連合からワクチンを受け取ったが、4月13日に使用期限を迎えていたという。

 多くのアフリカ諸国では、ワクチンを受け取る前に十分な接種準備ができていなかった。ワクチンの承認に時間がかかり、医療従事者の訓練などが不十分だったことに加え、僻地までワクチンを届けられる交通ネットワークの欠如やワクチン忌避なども影響したとみられる。アストラゼネカ製は冷蔵で6ヶ月は安全に保存できるが、多くの国では使用期限が数ヶ月後に迫ったワクチンを送られても、対応できなかったようだ。(BBC)

 世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、35億回分以上のワクチンが世界中に配布されたが、そのうち75%以上がわずか10ヶ国に集中していると指摘し、ワクチンを普及させるためには、劇的に生産量を増やす必要があるとしている(BMJ)。生産の拡大は進めるべきだが、多くの人々がワクチンを待っているいまは、需給の徹底した管理など廃棄を防ぐ方策が必要だろう。

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Text by 山川 真智子