富裕国のワクチン独占「ワクチン・ナショナリズム」にどう対峙するか

「COVAXファシリティー」を通じてコソボに配布されたワクチン(3月28日)|AP Photo

 世界各地で新型コロナワクチンの分配と接種が進むなか、高所得国と中低所得国との格差の問題があらためて浮上している。とくに欧米や日本などの高所得国が自国民のためにいち早く、より多くのワクチンを確保しようとする動きである、ワクチン・ナショナリズムに対しては、世界保健機関(WHO)事務局長であるテドロス・アダノム・ゲブレイェススも懸念の声をあげている。ワクチン分配をめぐるポリティクスとは。

◆ワクチン・ナショナリズムへの懸念
 富裕国は、ワクチンの予約販売が開始した昨年8月時点で、それぞれ人口の何倍分ものワクチンの確保に走っていた。米国は開発が進んでいた少なくとも6種のワクチンを、8億回分確保、さらに10億回分の追加購入の選択肢も保有していた。英国は国民ひとりあたり5回分にあたる、3.4億回分を確保。ひとりあたりの回数においては、世界で一番多い量である(ネイチャー)。開発中のワクチンが必ずしも有効であるという確証がないまま、富裕国は保険をかけていたという状況もあった。

 2月、エチオピア出身のテドロスWHO事務局長は、米フォーリン・ポリシーにて「ワクチン・ナショナリズムによって皆が害を被り、だれのためにもならない(Vaccine Nationalism Harms Everyone and Protects No One)」と題した記事を発表。世界人口のたったの16%である富裕国が、ワクチンのグローバル供給の60%を買い占め、国民の7割接種を目指している。一方、中低所得国へのワクチンの公平な分配を目的としたWHOらが設立した国際的な枠組みであるコバックス(Covax)は予算が不足しており、2021年度末までに参加国の人口の2割に対してのワクチン接種という目標すら達成できるかが危うい状況だ。テドロスは、ワクチン・ナショナリズムは、モラルや疫学の観点だけでなく、社会経済的な観点においても問題であると指摘。富裕国のみがワクチン接種をすすめ、中低所得国を放置した場合の経済損失は4.5兆ドルに上るという試算だ。

Text by MAKI NAKATA