英タレントが強制送還 豪の隔離ルールを嘲笑

ケイティ・ホプキンス氏|Nathan Strange / AP Photo

◆家族に会えない国民も セレブの特別扱いに怒り
 この騒動は、豪国民のフラストレーションとストレスの大きさを感じさせる象徴的な事件だった。

 BBCによれば、ホプキンスはトランプ前大統領のお気に入りでもあり、移民を「ゴキブリ」と呼び、イスラム教徒を「嫌悪を催させる」と表現したこともある。過去にはツイッターからアカウントを停止されたこともあり、南アフリカでも人種的嫌悪を拡散したとして拘束された、物議を醸す人物だった。

 それにもかかわらず、ニュー・サウス・ウェールズ州政府は、「経済的利益をもたらす可能性に基づき」入国を許可した。実は豪政府は2020年3月に、パンデミックのため国境を閉鎖。国外にいる約3万5000人の市民が帰国できなくなっており、この政策で多くの国民の一家離散が長期化している。(BBC)

 さらに、最近になり対策強化のため政府は1週間当たりの入国者数を3000人に半減させていた。そのようななか、ホプキンスのようなセレブやスポーツのスター選手などだけがルールの除外を受けて入国を許されており、こうした政府の対応に国民は不満を募らせている。

◆政府のワクチン政策迷走 しぶしぶロックダウンに疲れ
 現在シドニーやメルボルンではデルタ株によるアウトブレイクのためロックダウンが行われており、ホプキンスのロックダウンをあざ笑うコメントも国民の怒りに火をつけた。

 そもそもオーストラリアは感染の制御がうまくできていたため、ワクチン接種を急がなくてもいいというのが政府の考え方だった。そのため接種計画が不用意に忘れられ、供給合意に至ったワクチンのうち3つが、治験や承認の遅れで現在も利用できないままだ。利用可能なアストラゼネカ製は血栓ができるという問題で60歳未満には使用が勧められず、ファイザー製は供給が不足している。(ブルームバーグ

 モリソン首相は現在40歳以下にもアストラゼネカ製を勧めているが、それ以外を希望している人も多い(ガーディアン紙)。ワクチン接種を完了した人は人口のわずか11%しかおらず、感染抑制には当分の間ロックダウンしか策がない。他国が接種で経済再開に進むなか、豪国民の欲求不満は募っているようだ。

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Text by 山川 真智子