2週間で122万人ワクチン接種、イスラエル 接種率世界一の理由

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◆デジタル化された医療制度 事前準備も万端
 イスラエルで接種が進む理由の一つに、早期のワクチン確保に成功したことがある。パンデミックの初期からファイザーとビオンテックの共同開発ワクチンの供給を確保していた。同国のベングリオン大学のNadav Davidovitch氏によれば、テクノロジー・ベースの経済と製薬業界との強いコネクションを持つイスラエルは、接種を成功させたいファイザーにとっては魅力的なワクチン供給候補だったという(カナダCBC)。

 医療制度も接種を後押しする。国民皆保険制度があり、医療サービスは4つのHMOと呼ばれる健康維持機構が提供している。個人の医療データは電子データで蓄積されており、接種の優先順位付けを容易にしている。加えて、マイナス70度で保管しなければならないファイザーのワクチンを、安全に小分けにして地方に配布するという能力もある。これによって僻地での迅速な接種が可能となっている(BBC)。

 さらにこれまでの戦争経験から緊急時の対応に優れており、予備役の救急医療隊員700人が医療従事者に加わってワクチン接種にあたっている。国内では150以上のワクチンクリニックが稼働しており、周辺部の町にはワクチン接種用の車両が展開している(CBC)。AFPによれば、いまのペースで進めば、1月末までに200万人の接種が完了する予定だという。ガーディアン紙によれば、すでにイスラエルはモデルナやアストラゼネカのワクチンも確保していると地元紙が報じており、集団免疫の早期達成も期待できそうだ。

◆政治的思惑も パレスチナ人への対応もカギ
 注目されるスピード接種だが、問題点も指摘されている。イスラエルでは3月23日に国政選挙が予定されている。ネタニヤフ首相は、詐欺、背任、収賄の罪に問われており、汚名返上に必死だ。大規模なワクチン接種は同氏の人気回復につなげる意図があり、接種が政治的に利用されているという見方もある(AP)。

 イスラエルにはアラブ人社会もあるが、政府への信頼が低いこともあり接種があまり進んでいない。また、ヨルダン川西岸地区とガザ地区のパレスチナ人へのワクチン接種も問題となっている。イスラエルは湾岸諸国にパレスチナ人用のワクチンの購入を求め協議しているという。ヨルダン川西岸地区からは数万人がイスラエルに働きに来ており、商業的、また家族的なつながりがある人々も多い。この地区のワクチン接種なしでは、イスラエルのパンデミックも終わらないと見られている。また、ガザ地区で感染が拡大すれば、安全保障上の脅威が高まると懸念されている(ハーレツ紙)。

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Text by 山川 真智子