シュノーケル用具を人工呼吸器に、3Dプリンターでフェイスシールド…対コロナ戦に協力する人々

人工呼吸器として利用できるように手を加えられたシュノーケリングマスク|Marco Alpozzi / LaPresse via AP

◆ハンドサニタイザー不足への対応
 ハンドサニタイザーもまたしかりである。高級ブランドで知られるフランスのLVMHが、同グループのディオール、ゲルラン、ジヴァンシィの香水工場で、ハンドサニタイザーを生産し始めたニュースは耳に新しい。

 アイルランドのジンファクトリーはジンに代わりハンドサニタイザーを製造し始め(AFP)、アメリカのウォッカ会社はハンドサニタイザー製造に乗り出した(CNN)。

 さらに、4月5日付の20minutes紙によれば、深海水汲み上げに従事していたフランスの船舶ODeep Oneも、4月1日からハンドサニタイザー工場に変身した。船内に300万ものプリフォーム(PETボトル材料)を有していたことから、ルヴィリオ船長が下した素早い決断の結果だ。

◆シュノーケリングマスクが人工呼吸器に
 そのほか印象深い例は、世界に進出しているスポーツ用品店デカトロンのシュノーケリングマスクである。デカトロンはフランス企業だが、同社が製造販売するシュノーケリングマスクの人工呼吸器への応用が始まったのは、イタリア、ロンバルディア州にあるブレシアであった。コリエーレ・デラ・セラ紙(3月23日)によれば、ガルドーネ・ヴァル・トロンピアの元病院長ファヴェロ氏のアイディアによるもので、同地方のイノベーションプロジェクト企業イシノヴァの協力を得て実用化にこぎつけた。デカトロン社は、イシノヴァ社に、シュノーケリングマスクのCAD図面を提供し、それをもとにイシノヴァ社が付け替え用バルブを3Dプリンターで開発製造。その内容を無料で公開し、複数の3Dプリンター所有者がこれに協力したのである。

 L’OBS紙(4月7日)によると、イタリアに続いてフランスでも、このデカトロン社製の「人工呼吸器代替品」が広まっている。なお、デカトロン社では、医療使用を優先させるため、現在、在庫数万といわれる同社のシュノーケリングマスク販売を停止している。

 イシノヴァ創業者のフラカッシ氏は、時間との闘いでもあるバルブ製作に関して「一日4時間しか眠れず8日間で5キロ痩せた……だが、いまこの時期、人の役に立てることは本当にうれしいことだ」(コリエーレ・デラ・セラ紙)と述べている。冒頭紹介したニュージーランドのヴェンター氏も「いま、世の中にはネガティブな話ばかりが溢れている。(このプロジェクトは)人々が集中できる肯定的な何かを与えてくれるんだ」(スタッフ)と語っている。先の見えないトンネルのなかにいるいま、新型コロナウイルスとの闘いへの参戦は、出口を照らす一条の光なのかもしれない。

Text by 冠ゆき