【スイスの安楽死(2)】自殺ほう助を受けた親友、そこに見えた「穏やかな死」

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 スイス国内に住む人で、自殺ほう助で亡くなる人たちが増えている様子は、前回の記事で示した。スイス最大の自殺ほう助団体エグジット(ドイツ語圏)の会員数は、現在約11万人だ。11万人というと、とても多いが、人口約850万人のうちの1.3%に過ぎない。

 自分が会員だと通常は話さないことも関係しているだろうが、筆者の身近に会員はいない。また、自殺ほう助で亡くなった人のことについても、報道では見たり読んだりしても、当事者から詳しい話を聞いたことはない。

 だが、先日、親友Saraさん(仮名)の闘病生活を支え、48歳で自殺ほう助を受けて亡くなる場にも付き添ったスイスに住む日本人女性(エグジット会員)に、Saraさんの背景を語ってもらうことができた。たいへん貴重なお話を公開させていただくことに深謝しつつ、スイスでの自殺ほう助の実態を、よりわかりやすく読者に把握してもらえたらと思う。

◆義父の自殺ほう助を機に自分も会員に
 日本人のYさん(仮名)は、Saraさんの前にも、身近で自殺ほう助を受けた人がいた。2003年秋、定年退職直後に亡くなった義父だ。病気知らずで働いてきた義父は、2001年に体に少し痛みを感じて診察を受け、がんが見つかった。すでに手術ができないほどの末期段階で、通院して抗がん剤治療をすることにした。痛みは薬で抑えてはいたが、無痛でいることはできなかった。義父は自分の意思で、2003年夏にエグジットに連絡した。

 義父はプロテスタント教徒だった。カトリック教徒の義母は、信条と、自殺ほう助を受けたいという夫の意思との間で葛藤を感じた。しかし、西洋医学ではもう手の施しようがなく奇跡も起きることはないかもしれないと思い、義父の思いを尊重することにした。

 義父は、すぐに終身会員の登録をした。自宅で亡くなった日、Yさんは立ち会わなかった。義母、Yさんの夫、そして夫の姉が付き添い、義父はストローで致死薬を自分で飲んだ。まったく苦しまず、ふーっと眠りについて静かに息を引き取ったという。形式的には自殺のため、その後、エグジットが連絡して警察が来て、義父の死亡状況を調べた。

 亡くなった悲しみはとても大きかったが、穏やかに逝ったことはよかったと皆で確認し合った。葬儀は、義父の希望で行わなかった。これを機に、Yさんを含めた家族のほぼ全員がエグジットの会員になった。

◆がんが転移していた親友
 2011年夏に亡くなった親友Saraさんも、がんで自殺ほう助を受けた。YさんはSaraさんと、90年代初めに知り合った。同い年でとても気が合い、夫同士にも共通点があって、夫婦同士でのつき合いを始めるのに時間はかからなかった。そののち、お互いに子どもを2人もつことになって、つき合いは家族ぐるみに発展した。

 Saraさんは子育てに励んでいた2009年2月、検診でがんが見つかり、全身に転移していた状態だった。Saraさんはスポーツが好きで、いたって健康に過ごしてきたので、本人もYさんを含めた近しい人たちもまったく信じられなかった。

 抗がん剤治療が始まった。Saraさんの夫は自営業者で、働く時間を大幅に減らして看病することができなかったため、Yさんが昼間にSaraさんに寄り添うことにした。残念ながら、治療の大きな効果は見られなかった。がんの進行を抑えることができず、2011年初夏に病状が目に見えて悪くなった。そして亡くなる1ヶ月ほど前に、パリアティブケア(緩和医療)を受けられる施設に入った。がんが治る見込みはもうなかった。

 エグジットのことは、Yさんの義父が亡くなったときにSaraさん夫婦に話し、Yさん夫婦が終身会員になったことも伝えてあった。

Text by 岩澤 里美