【スイスの安楽死(1)】5つの自殺ほう助団体、「自殺ツーリズム」、市民の意識

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 NHKがスイスの自殺ほう助団体のことを取り上げるなど、日本でも、スイスの安楽死(注1)の様子はたくさん報道されるようになった。日本では、スイスは観光国、金融が発達した国といったイメージが強いため、スイスにいわゆる安楽死団体があって安楽死が認められていることを、また、スイスが世界で唯一、国外に住む人を安楽死のために受け入れることを最近知った人も多いだろう。

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 スイスに長く住む筆者が自殺ほう助団体のことを知ったのは、もう15年ほど前だ。英BBCが自殺ほう助団体ディグニタスのドキュメンタリーを初めて放送したと聞き、その番組を見た。今回は2回にわたって、そんなスイスの自殺ほう助の事情を紹介しよう。

                                                                                                                 

◆5団体が合法に活動中
 スイスでは、英ガーディアン紙が言うように、安楽死(euthanasia)という言葉はナチス時代を思い起こさせるため、通常使われない。スイスにおける自殺ほう助は、1918年から合法化されているという報道がいくつかある。しかし、1942年に刑法で「利己的な動機により、他人に自殺ほう助をした者は罰する」と定められたため、これが合法の起点とするのが一般的だ。この規定は、言い換えると、自分の意思で自殺ほう助を受けて亡くなるならば違法ではないという意味だ。

 スイスでは、1982年に初めて自殺ほう助団体ができた。エグジット(スイス・ドイツ語圏)とエグジットA.D.M.D.(スイス・フランス語圏)の2つだ。その後、Exインターナショナル(1996年設立)、ディグニタス(1998年設立)、ライフサークル(2011年設立)が設立され、九州くらいの大きさの国で、現在これら5団体が活動している。

◆国外在住会員ばかりの団体も
 どの団体も会費を払って会員になると、将来、自殺ほう助を受けられるかもしれない選択肢を保持できる。団体に所属する医師が自殺ほう助してもよいかどうかを判断するため、会員なら誰でも、逝く日を自分で決めて亡くなることができるわけではない。選択肢を得られたとしても、やはり生き続けようと意思を変える人もいる。また、ディグニタス設立者は「ディグニタス会員の70%は登録しただけで、二度と連絡してきません」と、イギリスのドキュメンタリー(注2)のなかで語っている。

 各団体の大きな違いは、会員の居住地だ。2つのエグジットは、国籍は関係なく、スイスに住んでいる人だけが会員になれる。スイス・ドイツ語圏のエグジットが5団体の中では最大で、2017年末時点で約11万人の会員がいる。

 ディグニタスは、2017年末時点でスイス在住者も8%(688人)いるが、39%がドイツ(3351人)、15%がイギリス(1315人)、8%がフランス(756人)、6%がアメリカ(542人)ほか、世界中に住む人が会員になっている。ドイツの研究グループfowidによれば、Exインターナショナルは、ほぼ全員がドイツ在住、ライフサークルはフランスを筆頭にスイス周辺国の会員が多いという。

 国外在住会員は、自殺ほう助が認められたら、スイスへ旅して人生最後の日を迎えることになる。5月に日本でも話題になった、スイスにわたって亡くなったオーストラリアの104歳の教授は、ライフサークルの自殺ほう助を受けた。これまでに自殺ほう助を受けた人は、高齢者だけではない。2008年には、麻痺した体で生活していた23歳の元ラグビー選手がディグニタスの自殺ほう助を受けて亡くなり、ディグニタスを介して亡くなった最年少のイギリス人になったと話題になった。

◆自殺ほう助を受ける理由の1位は「がん」
 スイス在住者で自殺ほう助を受けて亡くなる人は、下のグラフが示すように年々増えている。

出展:NZZオンライン「Sterbehilfe nimmt zu」2016年10月11日

 スイスの高級紙ノイエ・チュルヒャー・ツァイトゥング(NZZ)は、2015年の統計で少なくとも国内在住者の999人が(全死亡件数の1.5%に当たる)自殺ほう助を受け、2014年の742人を大きく上回ったと報道した。ほぼ半数が、がんだったとのことで、ほかには神経変性疾患、心臓血管の病気、筋骨格の病気が目立った。自殺ほう助を受けた場所は2つのエグジットが公表しており、どちらの団体の会員も、80%以上が自宅となっている。

 スイス在住者の会員の死亡数が増えるとともに、国外在住会員の死亡数も同様に増えている。ここではディグニタスの国外在住会員だけを見るが、設立した1998年は誰もいなかったのが、翌年は1人、2001年は39人、2006年は180人、2013年は197人、2017年は215人と徐々に増加している。
 

Text by Satomi Iwasawa

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