銀行業に革命をもたらすブロックチェーンが直面する5つの壁

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著:Markos Zachariadisマンチェスター大学、Professor and Chair in Financial Technology & Information Systems)

 デジタル革命で次に起こる動きは、音楽から廃棄物処理に至るあらゆる業界を変革する技術「ブロックチェーン」だとみられている。これがお金になれば、ビットコインをはるかに超える存在になるだろう。学会では、インターネットがメディアに果たしたのと同じことが金融システムでも起きるという議論がなされている。

 現在稼働しているパブリックブロックチェーンにはさまざまな形態があるが、その多くは「唯一の真実」を維持するために安全な分散型インフラを提供するという点で共通している。ネットワークが形成されて以降、ブロックチェーンのデータベース上でなされるすべての変化を記録するのだ。

 この技術の信奉者たちは、金融仲介業としての銀行が無用の長物になると予想している。日用品のネットでの購入、携帯電話を使った小売店での買い物、国外送金などいずれの場合も、取引はブロックチェーンの分散型台帳にすぐさま記録される。1970年代に構築されたシステム上で銀行同士が連携をはかりながら、取引情報が口座に登録されるまで数日も待つ必要はない。

 多くの銀行やフィンテック企業は2015年にブロックチェーンを使った実験を開始した。ブロックチェーンがもたらす取引の速度と透明性で資本化を目指した。それから4年が経った今、決済システムにおいてブロックチェーンが金融仲介業としての銀行を駆逐する状況にはまだほど遠いようだ。それは、ブロックチェーンが5つの根本的な課題に直面しているからである。金融システムの一部として受け入れられるためには、この課題を解決する必要がある。

◆ガバナンス
 ブロックチェーンの強みは特定の管理主体がないことだが、これは弱みにもなる。技術をどう動かすか、アップデートがいつ必要かを誰が決めるのだろうか?

 マイクロソフト・ウィンドウズでアップデートが必要になれば、マイクロソフト社がその決定を下して情報を送信する。だが中央に意思決定主体がいないブロックチェーンの場合、アップデートに関する決定には時間がかかり、機能を果たせなくなる。

 パブリックブロックチェーンの運用はコミュニティに近い。アップデートやシステムの改善について、系統的な意思決定をする手段がない。その代わり、エコシステム参加者の間で膨大な議論がなされる。ブロックの長さ、保持できる取引の数、取引をチェーンにする速さなどの問題について、集団で議論するのだ。こうした問題に対する解決策が存在しないこともあり、コミュニティをまとめて意思決定する手段がない。

 時にはブロックチェーンが分裂することもある。実際、2016年に分裂騒動が起きた。360万イーサ(当時の6,000万ドル相当)がイーサリアムの仮想通貨ネットワークから盗まれた時だ。イーサリアム考案者のヴィタリック・ブテリン氏は、新たなブロックチェーンとそれに対応するトークンを作ることで「盗まれた通貨を巻き戻す」ことに同意した。この「ハードフォーク」と呼ばれる手段により保有者は資金を取り戻すことができたが、コミュニティの一部はブロックチェーンの原則にそぐわないと感じ、「イーサリアムクラシック」として知られる古いイーサリアムを使い続けることにした。

 効果的なガバナンスのあり方について、ブロックチェーンはまだ答えを見つけられていない。意思決定に際して単純多数決が用いられることもあるが、ロビイストや統制力の強いアクティブな貢献者に対して脆弱なのが課題である。

◆拡張性
 ブロックチェーンの人気は高まっているものの、現在行われている電子決済の量からすると微々たる存在にすぎない。現在、ビットコインのブロックチェーンは10分あたり2,000件の取引を処理する。これに対しVISAの処理速度は1秒あたり6万5,000件であるほか、銀行や金融機関が送金時に利用している国際メッセージングシステムのSWIFTは1日あたり約2,400万件の処理を行っている。

 ビットコイン初期時代の2009年、ブロックチェーンの1ブロックでどれだけの取引を処理するべきかという「ブロックサイズ論争」が沸き起こった。ブロックチェーンのプラットフォームが世界の金融システムの一部を担う規模になるためには、この問題の解決が欠かせない。

◆標準
 ブロックチェーンはありとあらゆる方法で情報を管理している。つまり、一つのブロックチェーンから別のブロックチェーンに情報を送るのは必ずしも簡単なことではない。

 取引データ構造については、関係者の同意の得られた普遍的な形態は存在しない。金融決済をする際、ブロックは個人や企業の名前、口座情報、支払額、住所その他関連する情報を記録することになる。だがすべての仮想通貨はこの作業を別々の方法で行うため、一つの通貨から別の通貨に送金するのが難しくなる場合がある。記録する情報のほか、情報の系統的な配置に関する標準の確立が求められている。

 とはいえ、その基準を誰が作るのだろうか?ちょうどインターネット技術特別調査委員会(IETF)がインターネットの普及でその役割を果たしたように、基準設定を主導する主体が中心となって全体の同意を取り付けなくてはならない。

◆責任
 現在のプラットフォームには、何か不具合が起きたときに責任を取る仕組みがない。たとえば、カナダの仮想通貨取引所であるクアドリガCXは2017年、コンピュータのエラーにより1,400万ドル相当のイーサが失われたと発表した。

 イーサはイーサリアムシステムの隘路に入り込んだが、コミュニティは回復措置を取らないことにしたため、クアドリガCX が損失分の穴埋めをするしかなかった。結果として、顧客は被害を受けずに済んだ。

 確かに、お金を預けるブロックチェーンを一般の人に信頼してもらうには、責任の取り方についての問題を解決しておく必要がある。概して言えば、仮想通貨およびブロックチェーン業界には追加的な規制が必要だろう。

◆透明性と身元証明
 ブロックチェーン決済に関して言えば、すべてのユーザーが全ての取引を目にすることができるので、監査や追跡が簡単にできる。いかなる方法であれユーザーは身元証明をする義務がないため疑似的な匿名扱いとなっているが、英数字アドレスとネットワーク上でトークンを使用していることから追跡はされてしまう。こうした透明性は、ブロックチェーンの強みの一つでもある。つまり、あるアドレスから別のアドレスに渡ったビットコインの数量を他のユーザーは確認できるが、そのアドレスには名前が紐づけられていない。

 現行システムのSWIFTは、プライベートなネットワークインフラである。金融業界で法的根拠のある組織として証明・認証された機関しかアクセスできないため、安全性と頑健性が高いと考えられている。最終的には、ブロックチェーンに身元証明の枠組みがないことが多くのユーザーや投資家にとって問題になるだろう。これは金融システムの構築にあたって基本的な前提となるからだ。

 以上の問題への対処がなされるまでは、パブリックブロックチェーンおよび、ある程度のプライベートブロックチェーンが金融システムの新しい基盤になるのは難しいだろう。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation

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