「米はTPPに戻るべき」中国加入申請、米識者から焦りの声

上海の洋山深水港|Chinatopix via AP

◆中国の影響力阻止 アメリカは戻るべき
 中国がTPP加盟を検討していることは以前から知られており、米識者からはアメリカはTPPに復帰するべきという声が出ていた。経済サイト『マーケット・ウォッチ』に寄稿したメリーランド大学のピーター・モリチ氏は、中国はオープンな貿易を利用し多大な利益を得ており、東アジア地域包括的経済連携(RCEP)を含め自由貿易協定に前向きという見方だ。中国がTPPに加入すれば、ルールの解釈によっては小国を国家主導の資本主義に順応させることも可能で、アメリカの参加を阻止することもできる。さらに世界のGDPの3分の1を占める巨大貿易ブロックとなり、世界のルール作りに大きな影響力を与えるため、アメリカはTPPに戻るべきだとしている。

 カトラー氏は、アメリカは自国の離脱でTPPは崩壊し、RCEPもうまくいかないと予想していたと述べる。しかしどちらも間違いで、中国経済の引力はかなり強まっていると指摘する。そもそもバイデン氏は中国に対抗することを外交政策の一つとしているが、アジア太平洋地域の同盟国やパートナーが中国との経済的統合を進めれば、それは困難だと述べる。また、アジアの多くの国々にとって中国は最大の市場であり投資先でもある。よって強力な地域の貿易協定なしでアメリカがそれを覆すのは難しいとしている。(フォーリン・アフェアーズ)

◆戻れないバイデン政権 再度国内事情が壁に
 アジア・タイムズによれば、米国内ではアジアにおける貿易や安全保障の取り組みをめぐって、進歩派と穏健派の高官の対立があることが問題化している。またキャサリン・タイ米通商代表部(USTR)代表は、民主党と共和党の両方の支持者の間で保護主義が急増するなか、より「労働者中心」のアプローチの必要性を強調しているという。よってアメリカがTPPに復帰するのは簡単ではなさそうだ。

 バイデン氏はTPPに無関心という報道も多いが、アジア・タイムズは、バイデン氏はインド太平洋地域の主要な同盟国やパートナーを対象とした中国排除のデジタル自由貿易協定の提案により、TPP破棄による戦略的ギャップを埋めようとしていると述べる。従来の工業製品や農産物よりも、デジタル貿易を強調することで、議会の保護主義者の抵抗を避けやすいのだという。

 オーストラリアのダン・テハン貿易相は、まずはデジタル貿易協定で一歩前進し、次のステップである、アメリカのTPP参加につながることを希望すると述べていた(アジア・タイムズ)。しかし中国、そして台湾の加盟申請で、早期のアメリカ復帰を望む声が加盟国にも広がりそうだ。バイデン大統領の出方が注目される。

【関連記事】
TPPで変わる輸入牛肉の勢力図 ライバルの躍進に焦るアメリカ
イギリスのTPP参加の可能性は? 安倍首相のラブコール、EU離脱派の追い風に
アメリカのTPP復帰はあるのか? 現地紙も測りかねるトランプ氏の真意

Text by 山川 真智子