エチオピアの通信自由化とモバイルマネー「Telebirr」開始

アビィ・アハメド首相|Alexandros Michailidis / Shutterstock.com

 国営のエチオ・テレコム(Ethio Telecom)が通信事業を独占してきたエチオピアが通信自由化に踏み出し、先日、英ボーダフォン、ケニア・サファリコム、住友商事など5社で組成されるコンソーシアムが通信ライセンスを獲得した。一方、本ライセンスにおいて、モバイルマネーは対象外。先月エチオ・テレコムがモバイルマネー「Telebirr」(Birr(ブル)はエチオピアの通貨)を開始し、独占状態で一気に登録者数を拡大させた。エチオピアにおける通信業界自由化とモバイルマネーの最新動向とは。

◆アビィ・アハメド首相が進める民営化政策
 国営企業の民営化は、エチオピアのアビィ・アハメド(Abiy Ahmed)首相が2018年4月に就任以来、注力してきた政策の一つである。アハメド首相は現在44歳で、とくにアフリカ大陸においては珍しい若手の指導者。ハイレマリアム・デサレン(Hailemariam Desalegn)前首相の予期せぬ辞任を受け、首相に就任した。アハメド首相は、長年停戦状態にあった隣国エリトリアとの平和構築を実現し、2019年にはノーベル平和賞を受賞。政治犯に対する恩赦やメディア検閲の廃止といった政策も注目された。しかし、2020年にはエチオピア北部において、アハメド首相が指示するエチオピア軍は、ティグレ人民解放戦線(TPLF)と戦闘を開始したため、国際世論はアハメド首相率いるエチオピア政府に対する懸念と非難の声を示した。

 アハメド首相が、市場を独占してきた国営企業の民営化に関する方針を発表したのは、就任から2ヶ月後の2018年6月。長年政権を率いてきた与党連合、エチオピア人民革命民主戦線(Ethiopian People’s Revolutionary Democratic Front:EPRDF)は国営企業が主体となった経済政策を進めてきたが、さらなる経済成長と輸出拡大のためには経済改革が必要とのことで、経済自由化の新たな方針を示した。当時発表されたのは、テレコム(エチオ・テレコム)、航空会社(エチオピア航空)、電力、ロジスティクスに関する各社の国有株を、国内外の投資家に売却するという方針だ。

 なかでもテレコム市場の自由化のプロセスは具体的な進展をみせた。昨年11月、エチオピアは2件の通信ライセンスの入札を開始した。90日間の入札期間を経て、最終的に応札したのはVodafoneのコンソーシアムとMTNの2社のみ。当初はフランスのオランジュ(Orange)、サウジアラビアのサウジ・テレコム・カンパニー(Saudi Telecom Company)、南アフリカのテルコムSA(Telkom SA)などほかの10社も関心を示していたようだが、入札には至らなかった。結果、MTNの6億ドルに対して8.5億ドルの入札額を提示したボーダフォンのコンソーシアムがライセンスを獲得した。中国のシルク・ロード・ファンドが出資するMTNは、機会があれば再入札するとの意向も示している

 ボーダフォンのコンソーシアムは、住友商事とボーダフォンに加え、ボーダフォングループの通信事業者であるケニアのサファリコムおよび南アフリカ共和国のボーダコム・グループ、英国の投資ファンドであるCDCグループにより組成されており、共同でエチオピアに合弁会社を設立し、2022年のサービス開始を目指すとのことだ。

Text by MAKI NAKATA