オーバーツーリズムよ、さらば コロナ後見据えるイタリア

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◆フィレンツェの「散在するウフィツィ」プロジェクト
 イタリアン・ルネッサンスが黄金時代を築いたフィレンツェも、ベネチア同様、パンデミック以前はオーバーツーリズムに悩んだ町のひとつだ。フィレンツェが世界に誇るウフィツィ美術館などは一日1万2000人もの入場者を数えることもあった(CTVニュース、3/2)。過剰な観光客の存在は、地元民の生活の質を低下させるだけでなく、自然や景観など観光資源そのものの魅力も損なうものだ。またゴミ問題に代表されるように環境にも負の影響をもたらす。

 パンデミックによりいま現在はフィレンツェでも観光客は激減しているが、ウフィッツィ美術館のアイケ・シュミット館長は、すでにコロナ後を見据えたプロジェクトに取りかかっている。「散在するウフィツィ」プロジェクトと名付けられ、美術品の一部をトスカーナ地域全体の60~100の会場に分散させて展示するというものだ。つまり、トスカーナ全体が「大きな散在する美術館」となるのだ。

 現在、展示スペースの候補は吟味中ということで、詳細は公表されていないが、CTVニュースは、高い確率でメディチ家の別荘が含まれるとみている。それだけでも、モンテルーポ・フィオレンティーノやリヴォルノ、モンテカティーニ・テルメ、カレッジ、セラヴェッツァと候補地は数多くあるし、ほかにもヴィアレッジョやルッカなどが、すでにプロジェクトへの参加希望を表明している(CTVニュース)。

「散在するウフィツィ」プロジェクトは、観光客のフィレンツェ一極集中を避けるのみならず、周辺都市の活性化にもつながると考えられる。さらには、「トスカーナ人が、自分たちの土地の文化遺産と向き合う」機会にもなると、シュミット館長は期待する。

 コロナ禍を乗り越えたあと、元のオーバーツーリズム状態に戻るのではなく、新しい形態を目指すのならば、いまこそ計画を練る好機ともいえよう。今夏開始予定の「散在するウフィツィ」プロジェクトの展開に期待したい。

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Text by 冠ゆき