仮想通貨富豪の若者が流れ込むプエルトリコはクリプトユートピア?それともクリプトコロニアリズム?

RaiPhoto / Shutterstock.com

著:Larisa Yarovayaアングリア・ラスキン大学、Lecturer in Accounting and Finance)、Brian Luceyダブリン大学トリニティ・カレッジ、Professor of International Finance and Commodities)

 仮想通貨を扱う企業家が、プエルトリコへと渡っている。そこに仮想通貨の理想郷、クリプトユートピア(当初はプエルトピアと呼ばれていたが、現在はソルという名が与えられている)を構築し、税金のほとんどかからない取引を行おうというのが狙いだ。

 このように外国へと拠点を移した仮想通貨企業家は、新たなデジタル仮想通貨を開発すると共に、取引の大半にブロックチェーン技術を利用できる未来がどのようなものか、実証したいという希望も抱いている。

                                                                                                                 

 しかしアメリカ領プエルトリコでこのような変革を推し進めるのは、誰の未来ためなのか。少数のためなのか、それとも大勢のためなのか。この点ははっきりしていない。

 プエルトリコは、昨年発生したハリケーン「マリア」で壊滅的な被害にあった上、アメリカから十分な援助を受けることができず、島内のインフラ再建に多額の投資を必要としている。災害が発生する前にも、プエルトリコはすでに深刻な財政難に陥っていた。このような背景を踏まえれば、島内に流れ込んでくる仮想通貨企業家を、警戒しつつも歓迎しているという自治体の態度は、ある程度理解。しかし、その代償はなんだろうか。

 クリプトコロニアリズム(crypto-colonialism)というのは新しい言葉ではない。マイケル・ヘルツフェルド氏が18年前に生み出したものだが、当時は仮想通貨に関する言葉ではなかった。ビットコインが誕生するのは2009年以降のことである。

 クリプトコロニアリズムとはそもそも、ギリシャやタイのように、経済的には重度の依存状態に陥るという犠牲を払いながらも、政治的独立を獲得しようとする国を指す言葉だ。この場合、クリプト(crypt)は、隠れた、隠された、秘密の、といった本来の意味で使用される。建前上、これらの国々は独立しているが、その文化は、他国の様式に合うように作り直されてしまっている。コロニアリズム(colonialism)とはつまり、公然と銃を突きつけられて支配されているのではなく、規範や文化の崩壊による目に見えない支配を指す。

 クリプトユートピアの場合にも、その社会経済的な結果を見れば、クリプトコロニアリズムの定義が当てはまる。

◆仮想通貨の中心地
 自由至上主義と仮想通貨の動向には、密接な関係がある。ビットコインを始めとする仮想通貨の取引方法は、非中央集権的かつ超法規的であり、規制が存在しない。しかしカリブ地域の取引所で巨額の仮想通貨資産を築く者がいる一方で、資産もテクノロジーの知識も乏しい現地住民がその市場に参加することはできない。

 男性が大半を占める企業家は、昨年の間にプエルトリコに渡り、口座開設後のさらなるプランを練っている。彼らはプエルトリコに、仮想通貨の自由化という概念をもたらすだろう。彼らのビジョンは、プエルトリコに並ぶクリプトユートピアを目指すリベルランド自由共和国のビジョンに似ている。リベルランドはドナウ川西岸を領土とする「ミクロネーション」を自称している。そのリベルランドでは、「国の」通貨としてビットコインを使用する。

 ソルに話を戻すと、プエルトリコに拠点を移した仮想通貨企業家は、ブロックチェーンシステムを非中央集権型の選挙や、市民IDの発行にまで活用しようと目論んでいる。しかし貧困に苦しむ現地住民が、このような考えを喜んで受け入れるかというと疑わしい。

 企業家らのこのような振る舞いは、災害資本主義に思えてならない。災害資本主義とは、自然災害や経済危機を利用して、超資本主義的な思想である自由主義が根差した社会を、再構築したり、新たに形成したりすることである。数か月も停電が続き、見捨てられたと感じている中、どのようなものであろうと救いの手を差し伸べられれば、頼みの綱としてありがたく感じてしまうものだ。結果を深く考える余裕はない。

◆電力の問題
 クリプトユートピアはまた、重大な環境被害の原因となる可能性もある。ハリケーン「マリア」が発生してからというもの、プエルトリコでは今も深刻な電力危機が続いているため、ソルの実現に困難が生じている。ビットコインの取引1回につき、215キロワット時(KWh)の電力を消費する。電力系統がフル稼働していれば、島の数十世帯に十分供給できるだけの電力だ。

 ビットコインの利用による年間電力消費量は、過去1年間で9.5テラワット時(TWh)から48TWhに増加し、プエルトリコの総電力消費量19TWhの2.5倍となった。ハリケーン「マリア」の後にも、あまりに多くの資源とインフラが、島でのビットコインの使用に費やされている。

 仮想通貨富豪の若者達は、仮想通貨市場の急速な成長で一財産を築いた。しかし仮想通貨市場は、リスクの特殊性という問題を孕んでいる。仮想通貨を早い段階で清算し、利益を確定してしまえる富裕層にとっては、仮想通貨は賭け事のひとつである。それにより、仮想通貨市場にバブルが発生した。早々に手を打った人が儲け、清算が遅れた人が損をするというのは、どの市場のバブルにも共通する特徴だ。

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ハリケーン「マリア」に見舞われてから5ヶ月が経ったプエルトリコ(Sara Armas / Shutterstock.com)

 我々が最近実施した調査の結果、仮想通貨の値段は、金や株を始めとするその他の資産の煽りを受けて大きく変動することはあまりない。しかし仮想通貨の値段は、銘柄同士の連動性が非常に高く、つまりビットコインの値段が下落すれば、その他の仮想通貨にも影響が及ぶ。

 ビットコインが最近の値下がりを乗り切ることができれば、クリプトコロニアリズムは、世界へ徐々に浸透していくだろう。仮想通貨自由主義を唱える人々が、今後もソルの例に倣うようであれば、世界の中でも地震や津波、ハリケーン、あるいは経済危機で甚大な被害を受けた地域が、次の標的となる可能性がある。

 しかし仮想通貨は、経済復興の特効薬にもなってきた。ベネズエラは12月に、貴金属や石油、ダイヤモンドを担保とし、「ペトロ」と呼ばれる新たな仮想通貨を発行すると発表した。ベネズエラはこの仮想通貨を用い、アメリカの制裁措置や、高インフレ、石油価格の低下といった問題の解決を望んでいる。

 しかし、かつてネオコロニアリズム(neo-colonialism)として知られたような、発展途上国におけるビットコインの活用を、究極の災害・危機管理ソリューションと見なしてはならない。仮想通貨の将来性やブロックチェーンの導入方法の調査が十分に行われていない過渡期には、ソルのようなイニシアティブには懐疑的な姿勢でいるべきだ。

This article was originally published on The Conversation. Read the original article.
Translated by t.sato via Conyac

The Conversation

Text by The Conversation

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