トヨタ、英で「オーリス」生産維持 EU離脱不安のなか 分かれる各社の対応

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◆分かれる対応。日本勢は離脱後もイギリスで
 FTは、ここ数十年の英自動車産業のルネッサンスは、海外自動車メーカーの投資が前提となってきたと述べる。しかし、ブレグジットを前に、各社の対応は分かれている。日産、ホンダはトヨタより先にイギリスの既存工場へのコミットメントを発表しており、事業継続に前向きだ。以前は海外工場での生産を示唆していたBMWも、『ミニ』初の電気自動車をオックスフォード工場で組み立てると昨年発表している(FT)。

 一方、英自動車メーカー、ボクスホールの親会社であるフランスのグループPSAは、現在生産している『アストラ』を欧州大陸に移すかどうかを次の2年以内に決定するとしている。イギリス最大の自動車メーカー、ジャガー・ランドローバーは、ほとんどの車両をイギリスで組み立てているため、最もブレグジットの脅威にさらされているという。来年にはスロバキアに新工場をオープンする予定で、イギリス外への製造移転の新オプションになり得るとされている(FT)。

◆カギはEUとの調和。摩擦の少ない貿易継続を
 欧州市場中心に輸出する自動車メーカーが恐れているのは、EUとの交渉がうまくいかず、ブレグジット後に貿易障壁が生まれてしまうことだ。ブルームバーグは、自動車部品は製造過程で幾度も国境を越えるため、関税とその他の貿易障壁はイギリスの自動車産業にとって命取りになると述べている。

 ビジネス・エネルギー・産業戦略(BEIS)委員会は、イギリス自動車産業の生き残りには、EUとの継続した調和が欠かせないと指摘する。同委員会の報告書によれば、ブレグジット後に貿易障壁が発生した場合、輸出においては45億ポンド(約6600億円)が失われ、雇用と投資でも数億ポンドが失われるということだ(BBC)。

 同委員会は、新たな貿易協定が「ハード・ブレグジット」のダメージを相殺するという考え方は「非現実的」と訴える。政府はダメージを抑えることにフォーカスして、摩擦のない貿易条件を勝ち取るためEUと交渉すべきであるとメイ首相に強いメッセージを送っている(BBC)。

 FTによれば、イギリスにとって自動車は17万人の雇用を支え、製造業生産高の10%を占める重要な産業だ。トヨタを始めイギリスに残ると決めた企業のためにも、メイ首相には離脱交渉を丁寧かつ慎重に進めることを期待したい。

Text by 山川 真智子