欧州で再注目の『万引き家族』 スイスで議論になった日本と世界の社会問題

シネパッションが毎月開催されるチューリッヒ中心地の映画館ピカディリー

 このところ、欧州で『万引き家族』が再び話題になっている。半年前のカンヌ映画祭で、『怪物』が2度目の最高賞パルムドール候補となったことで、監督の是枝裕和氏に再び注目が集まったためだ。社会問題を描く是枝氏の、鋭く温かい眼差しは多くの期待を集めている。

 その直後に年間プログラムを発表したスイスの「シネパッション」というイベントで、『万引き家族』がリストに挙がった。シネパッションは、毎月1回、世界の映画を取り上げて上映し、その後に精神分析の観点から議論するもので、11月の映画として取り上げられた『万引き家族』の回に参加してみた。そこでの議論で、日本の問題から世界の問題へと意識が移り変わっていく様子が印象的だったので、紹介したい。

◆シネパッションでの様子
 ほぼ満席に近い映画館で、この映画を選んだ精神分析者フレーニ·ウェーバー氏が映画について解説し、その中で、『万引き家族』が海外で高く評価されているのに対し、日本の一部では「国家から助成金をもらって作った映画で日本の暗部を描き、結果的に日本の恥を晒し、罪を美化している」という批判が強まったと述べた。そして、こうした批判に対し、是枝監督は「政府から支援を受けた映画でも、政府を批判することは欧米では普通に行われている。日本もこうした懐の深さを持つべきだ」と主張したと紹介された。

 こうした解説の後に映画を観るのは、なんだかスイス人観光客と一緒に日本へ行くような気分だった。また、万引きの目撃者となることは、やはり同国人として少々居心地が悪かったのは否めない。

映画の冒頭の万引きシーン|cineworx

 ヨーロッパでの映画上映は、途中でブツッと切られ、休憩を無理矢理挟まれるのが一般的なのだが、このシネパッションではそれもなく、エンドロールの最後まで誰も席を立たず、皆で余韻を楽しんだ。その後に続く議論では、「なぜ日本国内で批判されたのか」という質問が出た。やはりヨーロッパ人には理解しづらい反応なのだろう。ほかには、「日本のように勤勉に働き続け、結果を求められる国では、家族を慈しむ時間などないのかもしれない」など、最初は「異国の問題」というスタンスの意見が聞かれた。

Text by 中 東生