テイラー・スウィフトが再録シリーズを発表する理由 「テイラーズ版」が放つメッセージとは

Evan Agostini / Invision / AP

◆ミソジニーに対する反発
 スウィフトは、自作の曲に対してのオーナーシップの重要性を主張している。ユニバーサル・ミュージック・グループとの契約は、楽曲を自身が所有するという内容になっている。しかし、自身の楽曲の版権が(スウィフトの主張によると)勝手に売却されたという事実は、単純にアーティストがその権利を主張しているということだけではなく、ミソジニーに対する反発の意図も見え隠れする。

 スウィフトは、ブラウンのいじめの問題と、彼女に買収の機会を与えずに売却を進めたビッグ・マシン・レコードのボーチェッタの裏切りに対して反発している。その行為に対して、「ボーチェッタ、そしてブラウンには意図があった。本人は関わりたくないと思っている女性をコントロールしようという意図だ」と反発している。さらにスウィフトには、ブラウンが過去にマネージャーを務めていたカニエ・ウエストとも敵対的な過去がある。2009年のMTVビデオ・ミュージック・アワーズで、彼女は最優秀女性アーティストビデオ賞を受賞。その受賞スピーチの最中、カニエ・ウエストがステージに乱入し、マイクを奪って賞はビヨンセが受賞すべきであったと発言するという事件が起こった。2016年、ウエストは「自分がビッチ(スウィフト)を有名にした」といった内容の歌詞が含まれた自身の楽曲『Famous』をリリース。スウィフトはミソジニーだと公に批判したが、のちに、ウエストの妻キム・カーダシアンによって、ウエストがスウィフトに電話し、歌詞の内容に対しての了承を取っているというビデオが公開された。スウィフトはこのビデオ録音のリークは違法だと主張した。4年後の2020年に新たにリークされたバージョンでは、カニエは歌詞と楽曲に関してスウィフトの事前了承を得ようとしているが、問題の箇所「自分がビッチ(スウィフト)を有名にした」については、スウィフトは承諾していないことが確認された。

 昨年、スウィフトのマスター版権は、ブラウンからディズニー一族の関係者が所有するロサンゼルス拠点の投資会社シャムロック・ホールディングス(Shamrock Holdings)に約3億ドルの価格で売却された。所有権はブラウンから離れたものの、ブラウンは今後も継続的にマスター版からの収益を受け取るという契約。この事実を受け、スウィフトはシャムロック・ホールディングスに対して、最初の6つのアルバムの再録を行う旨を、書面で伝えている

『レッド(テイラーズ・バージョン)』は、リリースから数時間以内に米国iTunesのアルバムチャートの首位の座に輝いた。再録版のアルバムは、オリジナルのタイトルの後ろに「テイラーズ・バージョン(Taylor’s Version)」という表記が追加され、最初にリリースされたバージョンと区別されている。『レッド』は約10年前の2012年にリリースされたアルバム。スウィフト自身が22歳から31歳へと成長しただけでなく、時代の文脈も変化した。#MeTooムーブメントや、ブリトニー・スピアーズを虐待的に管理してきた後見人の父親から彼女を解放せよという#FreeBritneyムーブメントの盛り上がりは、世論のミソジニーに対しての不寛容を表している。クリントン元大統領とのスキャンダル問題で有名になったモニカ・ルインスキーは、現在アクティビストとして活動している。当時メディア報道やより権力があるクリントン側からの主張の陰に追いやられた、彼女側からの主張と彼女のナラティブを取り戻すための再発信を積極的に行っている。

 テイラーズ・バージョンは、スウィフトがナラティブを取り戻したバージョンであると同時に、時代を表す象徴的なアーティスティック・プロダクションなのだ。

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Text by MAKI NAKATA