「皆が勝手に私の名、ストーリーを…」冤罪被害者、自身がモデルの映画を批判

Jessica Forde / Focus Features

 7月30日、マット・デイモン主演の映画『スティルウォーター(Stillwater)』が米国で公開となった。映画は、2007年にイタリアで起こった殺人事件と殺人容疑で不当に逮捕された実在の人物アマンダ・ノックス(Amanda Knox)に着想を得ている。ノックスは、イタリア警察の不当な扱いや、スキャンダラスな報道を続けるメディアに対して、自分のボイスを発信し続ける一方、フィクション化された「アマンダ・ノックス」のキャラクターに振り回され続けている。映画公開で改めて注目される彼女の葛藤のストーリーとは。

◆ペルージャ英国人留学生殺害事件
 2007年11月、イタリアのペルージャで英国人留学生のメレディス・カーチャー(Meredith Kercher)が自宅で殺害される事件が起こった。カーチャーは衣服を半分脱がされた状態で発見され、性的暴行を受けた証拠も見つかった。身体にはいくつも刺し傷があった。事件の犯人は、ルディ・グエデ(Rudy Guede)で、殺人犯として当初30年の禁固刑の判決が下された。その後、控訴を経て、刑期は16年に減刑された。2020年には、コミュニティ・サービスの従事によって残りの刑期を過ごすことが認められ、グエデは刑務所から釈放されている。グエデは、この事件の犯行以前からドラッグ・ディーラーとして警察には名の知れた人物だった。住居侵入や強盗の前歴もあり、事件の1週間前にも強盗で逮捕されていたが、徹底した捜査や取り調べはないまま釈放された。グエデは、カーチャー殺害事件の犯行直後にイタリアからドイツに逃げたが、犯行現場から彼の指紋やDNAが見つかったため、その後、逮捕に至った。

 グエデには容疑者としての十分な証拠があったにもかかわらず、イタリア警察は、事件当初、カーチャーのルームメイトであった米国人留学生アマンダ・ノックスと、彼女の交際相手であったラファエレ・ソッレチート(Raffaele Sollecito)を容疑者として逮捕した。二人の最初の裁判は、収監から14ヶ月経った後の2009年の1月に開始し、同年の年末、ノックスには禁固26年、ソッレチートには同25年の有罪判決が下された。実の犯人のグエデは、手続きが早く進む方式の裁判を選んだため、2008年には有罪判決が下されていた。ノックスとソッレチートは、2011年10月に証拠不十分のため釈放されるまでの4年もの間、イタリアの刑務所に収監された。彼らの裁判手続きは、8年の年月を要し、最終的に2015年3月に、2人の有罪判決は覆された。

Text by MAKI NAKATA