非代替性トークン(NFT):デジタルアートが膨大なCO2を排出する理由

Rokas Tenys / Shutterstock.com

著:Peter Howsonノーザンブリア大学、Senior Lecturer in International Development)

 世界にひとつだけという作品に対し、あなたはいくら支払うことができるだろうか。収集家によっては数億ドル払うという人もいるかもしれない。では、実体がなくてJPEGファイルほど「リアル」ではない、デジタルトークンにすぎない芸術作品ならどうだろうか。以下では、非代替性トークン(NFT)という暗号化された収集用アートの不思議な世界を紹介する。

 NFTはビットコインと同類の暗号資産である。しかし、1ビットコインが何であれその価値はどれも同じであるのに対し、NFTは野球カードのようにそれぞれ価値が異なり、物を買うことはできない。アート作品、楽曲、映画、ゲームなどがデジタル化された形でユーザーのコンピュータの中に存在するものだ。

 NFTが登場したのは2017年、クリプトキティという暗号資産の収集物に関する初の主要な実験が行われたときだった。当時、猫カードの平均価格は約60ドル(約6840円)だった。いまの感覚からするとすずめの涙ほどの額だ。最近のオークションでは、1枚のデジタル画像の権利が6930万ドルで落札された「CryptoPunk 7804」(パイプを持つエイリアンが雑に描かれたアート作品)は750万ドルで売られた。「火星に建てられた住宅」という作品は50万ドルで購入された。デジタルハウスといっても、私たちが住むような家ではない。ツイッターのCEOであるジャック・ドーシー氏は最近、自身が投稿した最初のツイートをNFTとして300万ドル弱で販売した。

「ただ、そのツイートをどのようにしたら買えるのか?」と思う人もいるかもしれない。結局、誰もがそのツイートを何度でも自由にクリック、閲覧、プリントアウトし、額に入れることもできるのだ。

 NFTを手に入れるというのは、ブロックチェーンと呼ばれる改ざんできない分散型データベースに保管されている固有の所有権証明書を入手することである。一般に作品のクリエーターが著作権を保持しているため、多くの場合、NFT所有者には持っていることを自慢できる権利しかない。また、クリエーターはNFTファイルを生成するための費用(マイニング費用)を所有者に転嫁することもある(本稿執筆時点では約100ドル)。

 さらに言えば多くの場合、所有者は膨大なCO2排出にも責任を負うことになるだろう。

◆NFTのCO2排出にかかる費用を計算する
 NFTはブロックチェーン技術を活用しているため、膨大なエネルギーを消費する。多くのクリエーターたちはいまもイーサリアムという、ビットコインと同じくプルーフ・オブ・ワーク(POW)システムを使用して動くブロックチェーンを活用している。その際、エネルギーを大量に消費する計算機能であるマイニングが必要になる。マイニング専用のコンピュータがデジタルロックの組み合わせ(長々としたランダムな数字の並び)を交代で推測していく。組み合わせを正しく推測したコンピュータには、イーサ(Ether)という暗号資産として支払われる報酬が与えられる。約15秒ごとにデジタルロックがリセットされ、競争が継続する。イーサリアムが使用する電力量は約31テラワットアワー(TWh)で、これはナイジェリア全体の電力量に相当する。

 イーサリアムが排出するCO2に対して、NFT業界が負うべき責任の程度を正確に算出するのは非常に困難である。NFTの有無にかかわらずイーサリアムは稼働する。だが、デジタルアートの需要が高まるにつれて、NFTを取引する人々はイーサリアムが使用する総エネルギー量に責任を負うようになっており、アーティストのなかにはNFTの取引に二の足を踏む者も出てきた。

 フランスのデジタルアーティストであるジョアニー・ルメルシエ氏は最近、NFT関連のエネルギー費用を計算した結果、6作品の販売を中止することにした。わずか10秒間の販売のために同氏のスタジオ全体の2年分の電力を消費するという。

 デジタルアーティストの作品を紹介するサイト『ArtStation』では先日、NFTのマーケットプレイスを開発した。ところが、この計画のローンチを世界に向けて発表して数時間も経たないうちにSNSで非難の声が広がったため、このプロジェクトを中止せざるを得なくなった

 CO2排出という頭の痛い問題の影響を受けずに、NFT市場を稼働させる代替技術が存在する。サイドチェーン(訳注:メインとなるブロックチェーンとは異なるオフチェーンでトランザクションを処理する技術)を使えば、NFTの処理で使用するエネルギーは少量ですむ。NFT取引が、費用とCO2排出量をはるかに抑えられる中央集権型プラットフォームで行われるためである。

 ダミアン・ハースト氏は、「Palm」というサイドチェーンを利用したNFTプロジェクト「The Currency Project」のコレクションをリリースする。ただ同氏はいまなおビットコインでの決済を受け付けているため、そのNFTプロジェクトでも膨大なCO2が排出されていることになる。

◆気候変動対策を行い芸術的なライセンスを取得する
 NFTの愛好家たちは膨大なエネルギーを消費してはいるものの、ブロックチェーン技術に対する人気が高まっていることにより、その動きが化石燃料から再生可能資源へとエネルギー供給網を高度化する誘因となっているという議論を展開している。航空業界でも同様に、環境に優しいフライトを実現するための効率的な技術革新を行う資金を確保するには、飛行機に乗る回数を増やさなくてはならないという主張がなされている。NFTについて言えば、こうした考え方は成り立たないという証拠がある。POWマイニングは競争が激しいため、NFT市場が活況を呈していることで信頼性の高い石炭火力発電所の建設が促進され、暗号資産の採掘者(マイナー)たちは再生可能エネルギーに特有の断続的なアクセスに悩まされることがなくなった。

 NFTクリエーターのなかには暗号ケーキを作り、カーボンオフセットを利用して食べようとした人もいる。カーボンオフセットを購入すると資源保護活動に資金がもたらされ、1カーボンクレジットの購入で1トンのCO2節約となる。つまり、そのCO2は森林に吸収されて蓄えられたり、理論的には何らかの産業革新によって大気中に放出されるのを防いだりする。オフセトラは排出量測定機を供給し、NFT取引を要因とする排出量を相殺するカーボンクレジットを販売している。NFTのマーケットプレイスであるニフティ・ゲートウェイは最近、地球と気候危機に触発されてカーボンネットネガティブな8つのNFTをオークションにかけた。その作品には60カーボンクレジットが付与され、それぞれのオフセット自体がNFTだった。

 NFTのカーボンクレジットは(ほかのカーボンクレジットでも)賢明な会計処理のほか、ブロックチェーン上にあるNFTのようにCO2は永久的に森林の中に閉じ込められるという考え方を前提としている。だがそれはあり得ないニフティのウェブサイトでは、「CO2排出削減を実現するためのすべての行動をとった上で、回避できない排出を中和するカーボンオフセットには意味がある」という説明がなされている。

 インターネットに接続できる人なら誰もが楽しめるデジタル画像を持っていることを自慢する権利には、CO2排出という避けられない要素も含まれているのだろうか。

This article was originally published on The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by Conyac

The Conversation

Text by The Conversation