NYタイムズ記事が56万ドルで落札 盛り上がるNFT市場
デジタル作品に唯一無二の価値を持たせることができる、ブロックチェーン技術を使ったデジタルトークン、NFT(Non-Fungible Token:非代替性トークン)を活用した取引が話題になっている。オンライン上のデジタル作品は簡単に複製・偽造されてしまいがちだが、作品を「NFT化」することで、作品に唯一無二のデジタル署名を紐づけることができる。この署名は作品の所有権を明確にし、希少価値を創出することができるため、新たな市場の可能性が期待されている。アート、そしてエンターテインメント、メディア業界に広がる動きとは。
◆にわかに盛り上がるNFT市場
NFTは2012年ごろから存在していたが、昨年から売買が増え、今年になってさらに話題が沸騰している。NFT取引をトラッキングしているサイト『NonFungible』によると、4月22日現在、過去一ヶ月で約12.4万件の販売取引があり、総売上額は約1.9億ドルだ。トレーディング・カードのようなコレクター・アイテム、ゲーム、アート、画像など、NFTによってデジタル資産化された多様なデジタル作品が取引されている。ツイッターのCEOジャック・ドーシー(Jack Dorsey)が2006年3月21日に発信した最初のツイートは、今年の3月22日に292万ドル(1630.58イーサ)の価格で落札された。
現時点での最も高額なNFTは、Beepleという名で知られるデジタルアーティスト、マイク・ウィンケルマン(Mike Winkelmann)が手がけた「Everydays – The First 5000 Days(毎日 − 最初の5000日)」という作品で、老舗のオークションハウス、クリスティーズの仲介により6935万ドルの価格で落札された。Beepleは、イラストや3Dグラフィックなど多様な媒体を使ったデジタル・アーティストとしての実績があり、過去にはジャスティン・ビーバーやケイティー・ペリーなどといった著名なアーティストのコンサートのための映像提供なども行っている。Everydaysは、過去13年間にわたって毎日欠かさず、一から完成させた作品をオンライン上で公開してきた作品群で、Beepleは14年目の現在も新たな作品を生み出し続けている。
Beepleの作品を落札したのは、30代前半のシンガポール在住インド人起業家、ビグネッシュ・サンダレサン(Vignesh Sundaresan)だ。彼はオンライン上ではMetakovanという名を使っている。サンダレサンは、プログラマー、エンジェル投資家の顔も持つ連続起業家。10代のころから株式などの金融に関心を抱いており、カナダの大学に在学中の2013年にブロックチェーンに目覚めたという。翌年にはカナダ初のビットコインATMを設置し、その事業でBitAccessを立ち上げた。同年、サンダレサンはシリコンバレーの名門アクセレレーターであるYコンビネーターに参加し、資金調達も果たしている。彼はThe Metapurseという名の、仮想通貨専門ファンドを運営しており、NFT作品の収集に力を入れている。Beeple作品への投資も初めてではなく、過去に20の作品を取得している。
今回、サンダレサンが落札したBeeple作品は、在命しているアーティストの作品につけられた価格では、ジェフ・クーンズ(Jeff Koons)、デイヴィッド・ホックニー(David Hockney)の作品に次いで3番目の高値をつけた。Beepleは、クーンズやホックニーと比較すると、現代アート界において広く知られているアーティストではない。一方、サンダレサンも、(NFTではない)一般的なアート収集家として知られているわけではない。NFTという新たなツールは、アート市場の新たな広がりを予期させるものである。
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