フィンランドの「90日お試し移住」に応募殺到 世界のIT人材獲得へ

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◆国内では人材不足 米IT技術者獲得に本気
 フィンランドはノキア、SMS、Linuxを世界にもたらし、人口1人あたりのデジタルスタートアップが世界で最も多いIT先進国だ。IT分野で高いスキルを持つ人材を必要としているが、需要が供給に追いついていない(ガーディアン紙)。

 その理由が労働人口の減少だ。少子高齢化が進んでおり、十分な移民を受け入れなくては労働力が確保できない。長期的に見ればこのままでは雇用自体が減り、その結果、国際競争力を失うと見られている。そこで政府は、「タレントブースト(Talent Boost)」というプログラムを立ち上げ、積極的に有能な外国人材の獲得を目指している。

 世界の優秀な人材にとって、これまでフィンランドが希望の移住先の上位に来ることはなかった。スタートアップが盛んといっても、人口600万人弱のフィンランドの首都ヘルシンキの人口は100万人にも満たない。世界的な影響力が小さく、観光客の往来も少なく、多国籍企業の本社も少ない小都市、というヘルシンキのイメージが不利になっているという専門家の声もある(BBC)。

 こういったハンデを克服し、フィンランドの魅力をアピールしてほかの都市との差別化を図るため、お試し移住は計画された。キャンペーンの主要ターゲットはパンデミック対応のまずさと政治的分断に疲れた、アメリカ西海岸のIT技術者だという。北欧の寛大な社会福祉や優れた学校制度も彼らには魅力的だ(BBC)。参加者にフィンランドの良さを知ってもらう絶好の機会になると同時に、宣伝効果も期待できそうだ。

◆寒くて内向きが壁? 差別解消も課題
 もっとも、フィンランド移住はいいことずくめではない。アメリカから移住してきた女性は、気温の低さと、アメリカ人ほど外向的、社交的ではないフィンランド文化に慣れるのに時間がかかると述べている(BBC)。

 さらに、仕事探しではソーシャルネッワークやコネが必要で、一般に公開されていない職も多くあるという。また、偏見や差別も労働市場には残っており、肌の色や出身国を気にしたり、完璧にフィンランド語をしゃべることを求めたりする雇用者も依然としているということだ(フィンランド国営放送YLE)。「タレントブースト」プログラムでは、雇用者が積極的に外国人材をリクルートすることを求めているが、こういった問題が今後の課題となりそうだ。

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Text by 山川 真智子