ロシア富裕層が仮想通貨によって経済制裁を回避しているのは本当なのか

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著:Dr Paul Mazzolaウーロンゴン大学、Lecturer Banking and Finance, Faculty of Business and Law)、Mitchell Gorochウーロンゴン大学、Cryptocurrency Trader and Researcher)

 保有資産を仮想通貨に交換することで、ロシアの富裕層が経済制裁から逃れようとしていることに懸念を示すアメリカ民主党の有力上院議員エリザベス・ウォーレン氏は、ロシアにおける仮想通貨取引を制約するための法案を連邦議会に提出した

 ウォーレン議員は上院委員会公聴会で「ロシアが保有する全資産を仮想通貨に交換することで、すべての制裁から逃れることが可能になると主張する人はいません。ただ、保有する資産のなかの、たとえば10~20億ドルをかくまおうとしているプーチン氏側近の新興財閥オリガルヒにとって、仮想通貨はかなり都合のよい選択肢にみえるでしょう」と語気を強めて訴えた

 法案はロシアでの仮想通貨取引を全面的に禁止するものではないが、アメリカ政府に制裁の権限を与えるものになるだろう。具体的には、アメリカ企業に対して制裁対象であるロシアのアカウントに関連する仮想通貨取引の処理を禁じることや、制裁対象となっているロシアの個人や企業、政府機関と取引を続ける第三国の仮想通貨交換所に対し二次的制裁を実施することが可能になる。

 しかし、これは本当に必要な措置なのだろうか。

 この1ヶ月の間に、ロシアにおける仮想通貨取引は取引高と価格の双方において増加していることが裏付けられているものの、その購入層はロシアの一般市民であり、ルーブルが暴落するなか貯金を保持するためであることが例証されている。

◆制裁の目的
 ウクライナへの侵攻を受けてロシアに科された経済制裁によって、同国の経済は当然ながら打撃を受けている。しかしながら本来の目的は、プーチン大統領と同政権を支持する超富裕層の新興財閥オリガルヒに最大限の痛手を負わせることである。

 オリガルヒが他国に保有している資産を凍結したり金融取引を封じたりすることで、個人的な財産の利用や移動を阻止することがこの戦略の要となっている。

 一方で、バイナンスやヨービット、ローカルビットコインなど、ロシア国内で継続して運用されている仮想通貨交換所は、以前からアメリカ当局にとっての悩みの種であった。今回のロシアによるウクライナ侵攻以前、2014年のクリミア併合を受けてロシアに制裁を科した際にも、仮想通貨によってその効力が薄れることに警鐘を鳴らしていた。

◆ルーブルの下落
  2月24日にウクライナへ侵攻して以降、ドルに対するルーブルの価値は40%下落し、1ドル76ルーブルから132ルーブルへと値を下げた。記事掲載時には、1ドル=約109ルーブルであった。

◆ルーブル建てのビットコイン取引量が増加
 ロシアではビットコイン以外の仮想通貨も購入できるが、売買されている仮想通貨のなかで圧倒的に取引量が多く、信頼を得ているのがビットコインである。そのため、市場の代替としての利便性が高い。ビットコインの分析サービスを提供する大手、コイン・ダンスによると、戦争がはじまった2月24日から記事掲載日までの間に、ルーブル建てビットコインの取引高は260%増加した。

 驚異的な増加率ではあるが、ルーブルの切り下げが要因であるとすれば驚くに値しない。3月中旬の1週間で、ビットコインに交換されたルーブルは約2800万ドル相当であり、2月中旬の約1400万ドルと比較すると100%の増加率である。

 それでもなお、世界全体からみると、ルーブル建てビットコインが占める割合はごくわずかだ。仮想通貨のデータ分析会社カイコによると、毎週200億から400億ドルのビットコインが購入されているという。つまり、ルーブル建てビットコインの取引高は全体の0.14%未満でしかない。

小規模取引
 仮想通貨のアカウント数と平均取引額を視野に含めることも重要である。

 仮想通貨データサービス会社グラスノードによると、侵攻がはじまった2月以降、ロシアにおけるビットコインのアカウント数は3990万から4070万へ増加した(同国の人口はおよそ1億4400万人)。

 ロシアの取引所のなかで最大手のバイナンスから提供されたデータによると、ルーブル建てビットコインの1日あたりの平均取引高は、2月中旬までに580ドルへと増加している。比較して、同時期のアメリカでの取引高は、平均2198ドルである。

 ロシアの仮想通貨市場は流動性が比較的低く、同国の取引所に多額のルーブルが投じられても、その処理能力は大きく制約される。

 流動性とは、市場価格の変動に影響を及ぼすことなく、金融資産や株、この場合にはビットコインと現金の間で換金しやすいことを示す。市場に参加する売り手と買い手が増えるほど、取引完了がスムーズになり、交換レートに与える影響は少なくなる。売り手と買い手が少なければ、取引はより困難になる。

 ロシアのビットコイン取引の流動性を測る尺度となるのは、売り手と買い手の合意金額である。ロシアでは約20万ドルであるが、アメリカを拠点とする仮想通貨取引所ではその110倍の2200万ドルで売買されている。

 これらの分析結果より、多額のルーブルでビットコインの取引を望む人には困難が待ち受けていることが示唆されている。

◆小口投資家
 それゆえに、ロシアの仮想通貨取引が増加の一途をたどった背景には、小口投資家に依る部分が大きいことが示される。プーチン大統領やその取り巻きが、何十万個ものアカウントを駆使して多くの小口取引を行い、財産を移動させることも可能ではある。

 しかし、これら富裕層が所持する財産はおもに、モナコや英領ヴァージニア諸島、アイルランド、さらにはアメリカのデラウェア州といった拠点に資産として保有するペーパーカンパニーに投資されている可能性が高い。

 厄介な政権と闘うための経済制裁措置を敷く戦略に、異議を唱える声はほとんど聞こえない。直接的な軍事介入以外で有効な、意味のある武器はほとんどない。しかし、制裁措置についてのもっともらしい有効性を過大評価しないためにも、事前に内容を吟味する必要がある。

This article was originally published on The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by Mana Ishizuki

The Conversation

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Text by The Conversation