仮想通貨導入への確固たる取り組みが求められるケニア デジタル通貨は後ろ盾となり得るのか

David Pereiras / Shutterstock.com

著:Dorothy Muthoka-Kagwainiデイスター大学、Deputy Registrar & Senior Lecturer, School of Economics)

 ケニア中央銀行は、デジタル通貨の運用開始について討議を重ねてきた。2014年以降、世界60ヶ国・地域を超える中央銀行がデジタル通貨の導入に乗り出している。

 具体的な計画については明かされていないものの、ケニア中央銀行のパトリック・ンジョロゲ総裁は、国際的な規制機関や金融機関と連携し、デジタル通貨の運用を検証していると発表した

 仮想通貨の運用を管理するための規則を定式化させ、実行に移すことを目的にデジタル通貨の導入を進めている中央銀行もある。たとえば、ナイジェリアはすでに公式のデジタル通貨「eNaira(イーナイラ)」の発行を開始した。

 世界経済フォーラムによると、ナイジェリアでは国民の3分の1が仮想通貨を利用または所有していると推定される。仮想通貨の代表格ともいえるビットコインの市場規模は、ケニアが世界でトップ3に入る

 仮想通貨はバーチャル・コミュニティ(仮想社会)において認められ、利用されているにもかかわらず、規制のないデジタル・マネーとして運用されているのが現状である。

 仮想通貨市場は、この10年の間に規模を大きく拡大した。ネットワーク間での取引が直接行われることから警戒が強められてきたが、銀行のような仲介業者が介入しないことで、参加者同士でのコミュニケーションや入金確認が可能になる。

 公式デジタル通貨の運用を開始することは、仮想通貨の規制に向けて第一歩を踏み出すことと同じくらい有益だと中央銀行は考える。その背景には、どちらの通貨にも活用されるブロックチェーン技術が関連している。ブロックチェーンは公開元帳であり、個々のコンピューターやサイト、国、組織間で、データのコピーや共有、同期を瞬時に行うことができる。

 すでに発行済のデジタル通貨のうち88%超がブロックチェーン技術を活用したものであり、仮想通貨もまたこの技術によって実証される。

 ケニアは中央銀行デジタル通貨の発行を開始することで、ブロックチェーン技術に基づくデジタル資産および通貨への正式参入を示すことになる。しかし、他国同様、同国でも仮想通貨を管理するための枠組みは備わっていない。

 とはいえ、仮想通貨をめぐる包括的な規制環境を策定するケニア中央銀行にとって参考となるようなエビデンスは、以前に増して多く示されている。

 2020年に発表した論文のなかで、私たちはケニアの規制環境をめぐる今後の動向について解析を行い、仮想通貨とブロックチェーン技術が有する利点と直面する課題について掘り下げた解説を試みた。

 同研究チームによる分析は、アフリカ以外の地域について議論された内容に基づくものである。その洞察は、中央銀行による調査や、デジタル通貨を運用開始する際の指針にもなるだろう。

◆現在の状況
 話題を集めてはいるものの、仮想通貨は世界中で完全に受け入れられているわけではない。詐欺であるとみなす人もいれば、ときにはハッカーによって通貨が盗まれ、法定貨幣と交換されてしまうこともある。これは、仮想通貨に関連する包括的で世界的なガバナンス(統治体制)が構築されていないことに起因する。

 世界経済フォーラムでは、諮問委員会のひとつである「仮想通貨に関するグローバル・フューチャー・カウンシル」が設置されたばかりだ。ここでは、中央銀行デジタル通貨(CBDCs)とブロックチェーン技術をめぐって、解決すべき課題と期待できる好機についての審査が行われる予定だ。また、デジタル通貨が主要な目的を果たすために必要なことについても協議される。

 世界経済フォーラムは、ブロックチェーン技術のひとつである分散型台帳技術を介して、中央銀行デジタル通貨の運用が開始されることを後押ししている。この台帳技術によって、中央銀行は取引を見出すことができる。

 分散型台帳技術と規制制度の双方により、入金や支払い、ハードウェアとソフトウェアの両システムに関連するリスクから中央銀行ネットワークを保護する効果が得られる。

◆提言したいこと
 いまのところ、ケニアではデジタル通貨の運用開始に向けての体制はまだ敷かれていない。けれども、世界中のほかの多くの国では発行に向けてすでに動き出しており、技術革新の恩恵を受けつつ運用体制が構築されてきた。

 中央銀行デジタル通貨に関連する政策についての「ツールキット」が、世界経済フォーラムによって策定されているところだ。このガイドラインには、中央銀行が自国の金融政策に沿った独自のデジタル通貨を開発するための方策が示されている。

 ケニアはこのガイドラインを参考に、自国の金融政策や財政の安定性を維持したまま、独自のデジタル通貨を発行することが可能だ。さらに中央銀行デジタル通貨は、既存の紙幣や硬貨と相補的に共存することが必須である。

 ケニア中央銀行は信頼できる組織である。全国民に対して仮想通貨についての注意喚起を行うことで、客観性と細やかな配慮を示した。ステーブルコインと中央銀行デジタル通貨の試験的運用が世界各国で開始されているなか、政府はデジタル通貨の研究に積極的に携わり、そこで活用される技術についての枠組みを提供するべきだ。

◆これまでにない新たな取引方法
 中央銀行デジタル通貨にブロックチェーン技術を導入することで、転機ともなるような技術革新への扉が開かれるかもしれない。企業や個人はこれまでの売り買いに加え、新たな手法での取引を行うことが可能になる。そしてブロックチェーンによって仲介業者による介入なく、個人が取引や入金確認を行うためのネットワークを直接共有することが可能になるため、ケニアにおける金融包摂が促進されることもあり得るのではないだろうか。

 デジタル通貨の導入によって、東アフリカ地域における金融市場は変容を見せ、資金移動をめぐる状況は改善されるだろう。それゆえに、タンザニア中央銀行のフローレンス・ルオガ総裁が同国でまもなく独自のデジタル通貨を発行開始する予定であると発表したことについて、驚きはない。

This article was originally published on The Conversation under a Creative Commons license. Read the original article.
Translated by Mana Ishizuki

The Conversation

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Text by The Conversation