インドは「バーラト」に? 過去に国名を変更した国の理由は

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 9月9日と10日にインドのニューデリーで開催されたG20サミット(第18回G20首脳会議)の開会に先駆け、各国首脳に送られた晩餐会の招待状が、インド大統領ではなくバーラト大統領からの招待という表記になっていたことが波紋を呼んでいる。その詳細とは。

◆モディ首相の思惑?
 G20の晩餐会のゲストに送られた招待状において、同国のドラウパディ・ムルム(Droupadi Murmu)大統領についての表記が、インド大統領ではなく、バーラト大統領となっていたことが明らかになった。同国の国内では、インドとバーラトという2つの正式名称が存在しているが、国内外どちらにおいても一般的に使われているのは前者だ。また、ほかにもヒンドゥスターンという名称があり、文学や大衆文化などにおいてよく使われている。

 バーラトという名前は古代のサンスクリットの言葉で、ヒンディー語においてもインドを意味する単語として使われている。一方、インドという名称は、インドを植民地化したイギリスの影響があって現在まで使われるようになったものだが、そのルーツはサンスクリット語でインダス川を意味するスィンドゥ(Sindhu)に由来している。バーラトという名前の方が、インドよりも古くから存在しているようだが、インドという名前が植民地主義かという点については議論の余地があるようだ。

 モディ首相率いるインド人民党(Bharatiya Janata Party:BJP)は、インドという国名はイギリス植民地政府が導入し、奴隷制の象徴であると主張。BJPはこれまでも、ムガル帝国やイギリス植民地の過去の遺産を消し去り、ヒンドゥー教に基づいたナショナリスト的なアジェンダを推し進めてきた。主要道路の名称を変更するといったようなことが一例だ。

 こうした文脈を受けて、対立政党の政治家は、この動きに対して批判的な見方を示している。インドという名前も、バーラトという名前も憲法第一条に明記されている。バーラトという名称に異議を示すつもりはないが、これまで築き上げてきたインドというブランドを完全に取り払うというのは馬鹿げているという意見もある。今後、正式に名前をバーラトに変更するというのではないかという噂もあるが、現時点では正式な発表はない。

Text by MAKI NAKATA