悪化する日中関係 歯止めはかけられるのか

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 8月下旬、日本が福島第一原発の処理水放出を始めたことへの対抗措置として、中国は日本産海産物の全面輸入停止に踏み切った。今年度福島第一原発から放出されるトリチウムの総量は年間22兆ベクレル未満で、中国の秦山第3原発から放出される量は143兆ベクレルあまりと日本の6倍であり、今回の輸入停止には強い違和感がある。国際原子力機関(IAEA)をはじめ、多くの国々も今回の放出に問題はないとしている。中国側にはどのような意図があり、日中関係の悪化に歯止めをかけられるのだろうか。

◆国民の反政府感情の矛先を日本に向けさせる
 今回の全面輸入停止の背景には、中国国内で高まる反政府感情がある。中国の経済成長率は近年鈍化傾向にあり、不動産バブルは崩壊し、若年層の失業率は20%を超えている。3年にわたったゼロコロナ政策の影響で国内経済は勢いを失い、国民の習政権への不満や反発は日に日に強まっている。

 習政権は共産党統治の安定を最も重視しており、それを脅かしかねないリスクをなるべく排除したい。そのようななか、日本が原発処理水を海に放出したので、習政権はそれを利用する(日本産海産物の全面輸入停止)ことで国民からの非難をかわし、その矛先を日本へ向けようとしたのだ。だが、これはいつまでも勢いが続くものではなく、今回は一種のガス抜きとなったが、習政権は再び国民の反発や不満に対処していくことになるだろう。

Text by 本田英寿